ドイモイ政策 ~共産主義一党独裁とドイモイ政策~

ドイモイ政策 ~共産主義一党独裁とドイモイ政策~

共産党一致支配とベトナム

古くは、中国からの侵略を跳ね返し続け、現代にいたっては第一次インドシナ戦争でフランス、第二次インドシナ戦争(ベトナム戦争)でアメリカ合衆国を、撃破して独立を果たしたベトナム。

この小国ながら、大国の支配を自力で粉砕しつづけたベトナムは、その独立で、独立運動の中心であった共産党による支配を国際的に承認されたと解釈した。

共産主義というイデオロギーは、ソ連であれ、中国であれ、ベトナムであれ、必ずプロレタリア革命(ベトナムの場合は民族独立革命)の勝利という力を正統性の根拠にして、次のような共産主義を至上価値に据えた独裁理論を唱えるところに共通点がある。

「我々は、社会主義を目指す革命運動の中で、それに勝利し、労働者階級的利害を代弁する前衛政党=共産党が権力を掌握した。そうすると、この共産党支配に対する反動勢力やブルジョア階級の階級利害を代弁する帝国主義者が体制崩壊を目論んで介入を続けてくる。この勢力から付加価値の唯一の源泉たる労働者階級の利益を守るため、強力な権力を共産党に一元化して、この介入から労働者階級利益を守るべきである。」

一方、我々、西側のイデオロギーは、次のような理論である。

「人類の普遍的な理念である自由主義、そしてそれを守るための価値相対主義に立脚した民主主義こそが、世界の隅々にまで広がるべき価値観である。権力を長期的に掌握する独裁的な政党は必ず腐敗を起こし、国民に圧政を敷くものであるから、これを、普通選挙を基本とする民主主義的な装置によって抑制し、人権を尊重することこそ、人類普遍の価値観である。」

21世紀の米中対立でも、20世紀の米ソ対立も、この理念の対立を根本に据えている。

欧米諸国が、人権尊重主義・民主主義・自由主義を重要な価値観として、連携して共産主義政権に対立しても、共産主義政権は、それを、自国の独立転覆を企む帝国主義的陰謀と置き換えて、一層、共産党一党独裁を正当化する。

グローバルな視点とは、イデオロギー的な価値対立に距離を置くところから生まれる。我々が、西側のイデオロギーというサングラスを通して彼らを見ていたのでは、永久に彼らのことは理解できないのである。中国や、ベトナムなどの共産党一党支配のエリアに、ビジネスを進める時、我々は、自由民主主義陣営側に立ってモノを考えていたのでは、彼らと理解不能な水掛け論に陥ってしまうのである。

共産党一党支配とドイモイ政策の位置づけ

ベトナムも、ベトナム戦争終結から1989年まで、このような共産党支配の正当化に終始する国だった。

しかしながら、ベトナムは、中国のような大国ではなかった。国際情勢を自らコントロールできる力はなく、寧ろ、国際情勢に翻弄されないように努力をしなければならないという自覚が、あったのだ。

ポルポト政権に介入してカンブジア進駐を行い、経済的に大きく弱体化した後のタイミングで、ベトナムは、1989年のソ連の崩壊という、共産党にとって、極めて痛手な事件に向きあわなければならなくなった。

それまでの同盟国であった、ソ連を盟主とする社会主義陣営、東欧・キューバなどのソ連型の共産党一党独裁の正当性によって統治を進めてきた諸国が、次々に崩壊をはじめた。

「ソ連と同じことをやっていたら、ベトナムはひとたまりもない・・・。」

ベトナムは、ソ連崩壊という事実に向き合ったとき、ようやく、インドシナ戦争を勝利したという事実から正当化したマルクス・エンゲルス型の共産党一党独裁を修正して、冷静に進むべき道を摸索しはじめたのだ。

ここに、ドイモイ政策、ベトナム語で、「刷新」政策がスタートする。

しかし、ドイモイ政策は、ベトナムが共産党一党独裁を基礎とする国家であることから、紆余曲折を経験する。

1989年6月に、中国で天安門事件が勃発。ソ連の崩壊で、その経済的な後ろ盾を失ったベトナム共産党指導部は、天安門事件に対する世界の批判に背を向けるように、ドイモイ政策を経済分野に限定し、自由化・民主化を時期尚早として制限を始める。

1990年代以降の中国とベトナムは、似たような逆説的な傾向を歩みだす。

市場経済が発展し、それに伴って欧米や日本に門戸を開放し、外国人投資家・ビジネスマン、そして観光客が国を訪問するようになればなるほど、共産党の中で、保守派が力を増す歩みである。

1995年。ベトナムは、ベトナム戦争を戦った宿敵 アメリカと国交を正常化し、同時に、東南アジア諸国連合(ASEAN)に加盟する。これは、海外から見れば、ベトナムが一気に改革開放を進めたように見える。しかし、ベトナム内政では、軍部の政治的発言力は増し、自由・民主主義とは逆の路線を進んでいる。

これが、ベトナムにおけるドイモイ政策なのだと、我々は理解して進まなければならない。

これまで、この「特集 ベトナムに進出する」のシリーズでは、合計3回にわたり、ベトナムの現代のドイモイ政策までの歴史を鳥瞰した。これは、とりもなおさず、日本企業がベトナム進出を検討する際、陥る、「親日的」「農業国家で日本的」「中国や韓国よりもずっとビジネスがしやすい」といった、イメージから来る誤解を抱いて、ベトナムビジネスと付き合い始めることへの警鐘を鳴らすためである。

第一講でも述べた通り、ベトナム人の共通の性格は、「楽天的で、相当にしたたか」というものであり、そのプライドは、いかなる大国に対しても、それを撃退することに成功した誇りからくる。

中国人は、我々日本人が、北京語の四声の発音が下手くそでも、笑って許して聞こうとしてくれる。しかし、ベトナム人はベトナム語の六声の発音ができなければ、聞き取ろうとしない。

ベトナム人は、中国人以上に、我々日本人が深く付き合うに、難しい人たちなのだ。

日本人の農耕社会に独特の、「集団のための滅私」という特徴を、日本人とは共有してもいない。

そして、政治的には、独裁政権特有の非常に硬直的で、外国人に対して差別的である。司法に至っては、外国人が起訴しても、ほぼ確実に敗訴するという、「前近代的」な国家だ。

それでも、ベトナムビジネスは、日本にとって重要なのである。以上のようなことを、乗り越え、我々は、皆さんに、ベトナムビジネスを進め、ベトナムに進出することを、提案する。

次講以降、そのための、今のベトナムに関する情報の発信に話を移してゆくことにする。

続く

本稿の著者

松本 尚典
URVグローバルグループ 最高経営責任者兼CEO
URV Global Mission Singapore PTE.LTD President

松本 尚典

  • 米国公認会計士
  • 総合旅行業務取扱管理者

米国での金融系コンサルタント業務を経験し、日本国内の大手企業の役員の歴任をえて、URVグローバルグループのホールディングス会社 株式会社URVプランニングサポーターズ(松本尚典が100%株主、代表取締役)を2015年に設立。
同社の100%子会社として、日本企業の海外進出支援事業・海外渡航総合サービス事業・総合商社事業・海外の飲食六次化事業を担う、URV Global Mission Singapore PTE.LTD(本社 シンガポール One Fullerton)を2018年12月に設立。
現在、シンガポールを東南アジアの拠点として、日本企業の視察・進出・貿易の支援を行う事業を率いている。
ベトナムのTPP参加による、飲食事業等・サービス業の規制緩和を受けて、ベトナムへの飲食事業進出・食材の貿易事業・ベトナム飲食事業進出コンサルティング事業・ベトナムビジネス視察支援事業のため、2021年9月にホーチミンオフィスを開設。

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