ベトナムへの製造業進出最新情報

前回の特集「ベトナムに進出する」はこちら

さて、今回のコラムから、具体的な事業ごとに、ベトナムの「今」のビジネス環境を観ていくこととしよう。

この原稿は、2021年6月に執筆している。執筆時、現在進行形で、日本では、新型コロナウイルスに対するワクチン接種が進んでおり、日本人ビジネスマンは、2020年中に、ワクチンパスポートを取得して、海外へのグローバルビジネスに戻ることが、予測できる。
そして、ベトナムは、新型コロナ禍の被害が世界的にみて少ない国である。そこから考えると、2022年に向けて、日本とベトナムのビジネス環境や投資環境は、平時の状況を、比較的早く、取り戻すだろうと予測できる。従って、この原稿では、新型コロナ禍から両国が脱することを前提に、書き進めることをご了承いただきたい。

ベトナムの日系企業進出は、ルイスの転換点を迎えた中国沿岸部リスクを意識した製造業からスタートした

ドイモイ政策が進行した現代のベトナムに対して、日系企業は、まず、製造業から進出をはじめた。

日本の製造業は、中国沿岸部の「世界の工場」に向けて、投資を行っていた。しかし、他方、中国共産党の意向によって引き起こされる反日運動に、日本企業は中国の政治的なリスクを感じ始める。

同時に、中国は21世紀に入り、構造的な問題も孕みだす。2005年に、中国沿岸部は、「ルイスの転換点」と呼ばれる時期を迎えたと言われる。ルイスの転換点とは、新興国の農村部(中国の場合、内陸部)の労働力が一定以上、都市部に流れ込んだ後、余剰人口を減少させ、その結果、農村部から都市部への人口流入が減少し、都市部での労働コストが上昇するポイントのことである。

中国の場合、一人っ子政策のよる少子高齢化は深刻であり、これが、中国における労働コストの上昇につながることになる。

このような中国の労働賃金の上昇は、製造業にとっては、大きな原価コストの上昇となってしまう。

このように、中国で、リスク増やコスト増を原因として、外資系の製造業に逆風が吹き出したことから、日系製造業は、中国の南方のベトナムに注目が集まるようになる。これが、チャイナプラスワンの動きとなり、ベトナムに製造業が熱い視線を向けるきっかけとなる。

いわば、日系企業のベトナム進出は、中国リスクを意識した製造業から、スタートしたのである。

ベトナム製造業ビジネスの基礎知識 EPEを知る

まず、製造業でのベトナム進出を考える場合、押さえておくべき知識がある。

それは、EPE(輸出加工企業)、NON―EPE(一般企業)の区別である。

EPE Export Processing Enterprises とは、輸出加工区内で設立され、操業している企業、または、工業団地内・経済区内で操業し、製品すべてを輸出する企業のこと。

EPEは、輸出関税や、事業にかかる付加価値税が免除され、スムーズな通関手続きが受けられる(但し、EPEは、あくまでも外国企業が、製品のすべてを輸出することが前提であるため、EPE施設とベトナム国内での物品の移動には、通関手続きが必要となる)。

ベトナムに進出をする日系の製造業は、これまで、EPEを中心とする輸出型企業であった。つまり、ベトナムで製造を行うが、ベトナムをマーケットとせず、ベトナムで製造のみを行い、製品を輸出する企業が大半を占めていた。加えて、現地での原材料調達も、あまり盛んではない。中国の製造業が原材料・部品の70%を現地調達するのに対し、ベトナムのEPEの現地調達率も、36%と低い。つまり、商品の原材料の64%を外国からベトナムに輸入し、ベトナムの安価な労働力を利用して製造し、それをベトナムから輸出して販売するのが、多くの日系製造業の実態だったのである。

しかし、2018年に、商社にとって重要な法律の大きな変更があった。これを契機に、ベトナムの日系製造業に原材料や部品を供給するサプライヤーが一気に増えだした。加えて、ベトナムでは人件費の上昇率が年10%にも達しており、製造業にとって、安い人件費だけを目当てにベトナムに進出をしても、製造原価コストが急速にアップし、メリットが消失する事態に至っている。

そして、一方で、この人件費上昇は、低いインフレ率とあいまって、消費者の可処分所得を大きく上昇させる結果を招いた。そのため、まさに、今、ベトナムの日系製造業は、EPEから、NON―EPEに変化しているところである。今後の製造業の課題は、EPE輸出型製造業からの転換である。これは、ベトナムで調達し、ベトナムで製造し、ベトナムで売る、内需型企業への移行である。

ベトナムの日系製造業は、今、その意味で、大きく輸出型企業から内需型企業へと変化をはじめているし、変化しなければ、製造業が生き残れないといえる。

製造業にとっての、ベトナムの環境 メリットとデメリット

では、製造業にとって、今のベトナムのビジネス環境の、メリットと、デメリットを観ていくことにしよう。

製造業にとって、今のベトナムのビジネス環境 【メリット】

①インフラ整備がよい

まず、ベトナムは、既に多くの製造業が、EPEで日本から進出している。そのため、レンタル工場のような、外資系向けのインフラが非常に多く、かつ整備されている。

②親日的

ベトナムは、フランスと中国の間で、長らく支配を受けており、良い意味でも悪い意味でも、日本との関係は、太平洋戦争の終戦まで、それほど、強くなかった。そのため、中国や韓国のように、国民は、反日教育を受けていない。日本や日本人に対しては、「経済成長を成し遂げた尊敬すべき国」という、よい印象を持っている。これが、日本人が言う「ベトナム人は親日的」という意味だ。従って、中国や韓国に進出する際に、大きなデメリットになる、反日という要素を、意識しなくてもよい。

(但し、日本の実習生制度は、現地では非常に評判が悪いため、日本に実習生として渡航して、酷い目にあった知り合いがいた場合、日本の製造業について、非常に悪い印象を持っている場合があり、この点は、要注意である)

③辛抱強く、実直な人柄の国民性

ベトナム人は、長い中国とフランスからの支配を受け、隷属を強いられた歴史がある。そのため、ベトナム人は、非常に辛抱強い国民性である。そして、非常に実直なタイプの人柄のヒトが多い。

そのため、製造業の従業員としては、ベトナム人の辛抱強く、実直であるという点は、非常に向いている。これが、日系企業がEPAで、ベトナムを選択した理由の一つだ。

しかし、ベトナム人が我慢強く実直だからと言って、彼らが、従順で、日本人的村落社会的な民族だと考えると、失敗する。

ベトナム人の共通の性格は、「楽天的で、相当にしたたか」だ。日本人の農耕社会に独特の、「集団のための滅私」という特徴を、日本人とは共有していない。この点は、前のコラムで発信しているが、日系企業は、よく勘違いして失敗するので、気を付けたほうがよい。

ベトナムの国民性については、下記の発信で詳しく書いているので、参照いただきたい。

④日本語習得者が多数いる

この後、述べる通り、ベトナム語は、日本人にとって非常に難解な言語だ。中国語の栟音(ピンイン)が4声に対し、ベトナム語は6声で、発音の攻略が非常に難しい。日本人が、ベトナム語を日本でトレーニングしても、現地では、全く通じないということも多々ある。

しかし、一方、ベトナムの、少なくともホーチミンには、日本語の教育機関が多く、日本語は、大人気だ。そのため、日本語習得者が多い。従って、ベトナム語を全く話せなくても、英語が話せなくても、現地で、日本語習得者の部下や、ビジネスパートナーを使いこなして、ビジネスが可能である。

現地で活躍している日本人ビジネスマンの多くは、ベトナム語を話せない。それでも、部下や現地通訳を使いこなせば、ビジネスは進められる。

製造業にとって、今のベトナムのビジネス環境 【デメリット】

①言語の問題

メリットの④で記載した通り、ベトナム語は、非常に難しい。日本語習得者が多いため、ビジネスでは、ベトナム語を話せなくても、乗り切ることができる。

しかし、一方、言語の習得が難しいということは、現地のベトナム人コミュニティに日本人が、殆ど入ることができないことを意味している。ビジネス上のコミュニケーションでは、通訳を雇用し、現地の従業員やパートナーを使うことで、何とかなるのであるが、しかし、それでは、ベトナム人と直接意思疎通ができず、表面的な部分でしか、彼らと関係することができず、信頼関係が創りにくい。

これが、日系の製造業では、よく障害になり、ベトナムの労働問題を引き起こすことになる。

②共産党政権下における、労働問題の難しさ

①で述べたコミュニケーションの支障で、最も深刻な問題を引き起こすのが、労働問題である。

ベトナムは、共産党が一党独裁で支配する国家であり、したがって、教育は、共産党が主導する理念に基づいて行われている。従って、労働問題に対する国民の闘争モチベーションは高い。

ここに、日本的なファジーな発想で、直接、コニュニケーションができないまま、状況が悪化すると、激しい労働闘争に発展する。こうなると、国や政府は、絶対に外資系企業の味方はしないため、大変なことになる。

ベトナムは、ドイモイ政策が進んだ今も、共産党一党独裁国家であり、社会主義・共産主義に基づくイデオロギー国家であるということを、よく、肝に銘じて、進出しなければならない。

③法制・行政・裁判所の問題

前回のコラムで発信した通り、ベトナムのビジネス上の最大のリスクは、法制度と、行政にある。この点は、詳しくは、下記のコロムに詳しく書いているので、そちらを参照いただきたい。

このような、法制度の不安定さや、行政・司法に外国人が入れない闇が存在するということは、現地で実務を行う担当者にとって、日本本国の本社から理解が得られない事態が多発するということを意味する。

立法が民主的に機能し、法律による行政が行きわたり、司法に腐敗がない日本では、理解しがたい問題が起きることを覚悟する必要がある。

内需型製造業への挑戦

以上のようなメリットと、デメリットを踏まえながらも、ベトナムは、製造業にとって、今後も、極めて魅力的なエリアであることは間違いない。

EPAを中心とする輸出型製造業から、現地調達をベースに成長するベトナム市場で販売を睨む製品を製造する事業へ。日系製造業は、今後、向かい始めるだろうし、それが製造業の最大の挑戦課題だと思う。

続く

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