飲食事業成長軌道編 第4話 イタリア ローマ

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ローマにて

イタリア共和国の首都 ローマ。

イタリア中部の、地中海に面したこの街は、永遠の都と称される古代ローマの中心都市として、長らく世界の中心をなしていた歴史を持つ。

日本の東京よりも緯度が少し高いが、地中海の温暖な気候のためか、この晩秋の季節でも日本より、幾分温かいと、雪子は感じていた。

東京神楽坂で半玉の芸者の仕事についていた雪子は、そのルームメイトであり、レズビアンの恋人でもあった奈美の紹介で、銀座花月の山之辺伸弥と出会い、山之辺に引き抜かれる形で、銀座花月に入った。

そして、そこで、山之辺が本業で勤務する、株式会社バリューフェスの当時、副社長であった坂田 将に見初められ、その愛人となった。

銀座花月は、その当時の山之辺との共同経営者であった、山之辺の実姉の優紀が結婚で引退し、山之辺の恋人でもあった奈美が引き継いで、店長となり、山之辺が単独経営のオーナーとなった。奈美とレズビアンの関係を解消し、坂田の愛人となった雪子が、店長となった奈美の下では働きにくいだろうと、山之辺が気をまわし、坂田と相談の上、雪子を奈美とは別の道を歩むように段取りをしたのだった。

坂田から、この話を聞いた雪子は、坂田に、自分はイタリアンの店を持ちたいのだと持ち掛けた。

バリューフェスのステージとは別に、イタリアンの本格的なリストランテのオーナーになるのも悪くない、と坂田は計算した。そんな坂田の資金を出してもらい、雪子は、イタリアのローマにある、イタリアンの名店 リストランテ サルメリアに、料理修業で受け入れてもらい、料理業のインターンシップで、ローマに下働きに来ていたのである。

雪子は、大学時代、イタリア語学科でイタリア語を学び、イタリアには、その後、何度か旅行にきていた。料理を覚え、店を出すなら、本格的なイタリアンのリストランテにしたいと、坂田にねだった。そして、ニューヨ-クのWwWコンサルタンツのシニアコンサルタント 松木陽介の紹介で、リストランテ サルメリアで料理の修行をすることになって、EUの労働ビザを取得したのであった。

ローマ料理の修行をし、日本に帰国後、坂田の出資・山之辺の経営で、イタリアンのリストランテの店を持たせてもらう。それが、坂田と山之辺の、今後の雪子の身の振り方に対する答えだった。

大きな資金を出してくれた坂田のためにも、山之辺のためにも、何としても、一人前のイタリアンのシェフとなって日本に帰らなければならない。雪子は、そう決心して、イタリアに単身、やってきたのである。

今日は、日曜日。

カトリックの総本家の国 イタリアでは、安息日の日曜日は、仕事は休みである。カトリック教徒は、教会にいくが、雪子は、休みを利用して、ローマの街を散策していた。

高級ブランドの店が立ち並ぶ、コンドッテ通りを、雪子は店をのぞきながら、ゆっくり東に向かって歩いてゆく。その突き当りが、スペイン広場になっていた。

古代ローマ帝国の円形競技場コロッセオなどの古代遺跡と、新しいイタリアの街が溶け合い、晩秋のローマの街は、一年で最も彩り豊かな表情をみせている。目元がすっきりとして、小柄な、独り歩きの日本人女性の雪子に、通り過ぎるイタリア人男性が、次々に声をかけてくる。

イタリアでは、男性が女性に通りがかりに声をかけて誘ってくるのは、いわば、礼儀のようなものだ。日本人にしては、男性に対し、開放的な雪子は、このようなイタリア人男性の振る舞いが、とても好きだった。

声をかけてきた男性についてゆくことは決してしなかったが、こうして男性に声をかけられている自分が、女神のような美しさを男たちに称えられておるような気がして、それが、雪子にはたまらなく快感なのである。

スペイン階段に腰を掛け、ぼんやりとローマの街を眺めながら、雪子は、店の修行の中で、身に着けたローマ料理のレシピを、思い返していた。

ローマ料理

イタリア料理の中で、ローマ料理は、力強い素材を存分に活かした美味な料理だ。

テヴェレ川の流れが作り出す、レジーナ・アクアルム(水の女王)と称されるローマは、その豊かな水をふんだんに使える地理的利点を生かした、独特の伝統料理を誇る。

このようなローマの地に根づいたローマ料理は、ローマに来て、修行しなければ、その味の再現が難しい料理と言われている。

ローマ近郊の農家や精肉の生産者から直接に素材を仕入れ、四季の移ろいを料理に反映する多彩なメニューを客は楽しむことができる。

そして、その料理は、古くから口承文化であるといわれ、作り方は、その店ごとに特色があった。雪子は、今、その中の名店 リストランテ サルメリアで、一品ずつ、その口伝を受けながら、料理を習得していた。

パリやベルサイユなどの内陸部で発展したゆえに、ソースによって料理を演出するフレンチとは異なり、魚介や葡萄などが豊富なイタリアの地で発展したイタリアンは、素材の味を活かすことが求められる。素材の質が異なっていた、イタリアの諸都市では、異なる料理が発展した。したがって、イタリアンは、フレンチよりも、ずっと多彩な地域の料理に恵まれている。

その中で、今、雪子が取り組んでいるローマ料理は、ローマの中でも、店ごとに特徴が異なり、したがって、非常に奥深い。

雪子は、仕事の休みを利用して、ローマ市内にあるレストランを食べ歩き、その料理を味わいながら、それを分析して、自宅で再現を繰り返していた。そして、リストランテ サルメリアで修得した料理に、自分だけのレシピを加えていった。

日本に帰るまでに、自分の店の料理とレシピをしっかり確立しておかなければならない。

ローマの休日 そして、夕暮れ

夕暮れ時に近づいていた。雪子は、スペイン階段上に建つ、トリニタ・デイ・モンティ広場に立って、ローマの西に沈む、ドラマティックは夕陽が沈むまで眺めていた。

そして、夕日が沈むと、雪子は、ナヴォーナ広場に向かって歩いていった。

ふと、日本でいまごろ、仕事に没頭しているであろう、坂田を想いだした。坂田の、筋肉で張った胸板がなつかしい。

藤やブーゲンビリアの緑に建物がすっかり覆われている。そこが、ビオ・ホテル・ラファエルだ。

最上階のリストランテに、雪子は、今日、一人で、コース料理を予約してあった。今日は、ここの料理を味わいながら、その作り方を、自分の味覚で探し当てる。

坂田や、山之辺のためにも、イタリアのローマで、日本のほかの店に無い味をしっかり習得し、料理の腕を磨かねばならない雪子だった。

イタリアでの一日一日が、雪子の料理の腕を大きく上げている。

続く

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