習近平氏の素顔から、習近平政権はどこへ向かうのかを読む

習近平氏の、中国共産党内の素顔を知ろう

日本では、中国共産党の歴史や構造を正確に記した書籍が少なく、報道も自由主義陣営に属する社会の立場から行われています。

現在、名実ともに中国共産党のトップにいる習近平氏は、日本から見ると「独裁者」ということになるでしょう。2023年に、くまのプーさんが中国で販売が規制されましたが、これは習近平氏を指す隠語として、「プーさん」が使われていたことに対する措置と言われています。

このようなことを行う政治家は、民主主義国からみれば、ヒトラーなどと同じ独裁者という言葉で表現されることも、当然のことかもしれません。

しかし、中国共産党のトップとしてタブーであった第三期目という長期にわたって政権を維持する習近平氏を理解し、中国の政治が、今後どこに向かうのかを予測して、ビジネスのベクトルを決めなければならない私たちにとって、習近平氏を動かすものを知るためには、習近平氏がどのようなヒトであるのかを、しっかりと把握しなければなりません。

一見すると、プーさんに似ている穏やかそうなおじさんが、アメリカを追い抜いて、4,000年と自称する中華帝国を再建させる野望を持っている、その原動力がどこから来るのか、それを知ることこそ中国の今後の方向性を予見する、重要な要素となると僕は思っています。

特集 中国はどこへ向かうのか」の第1講は、習近平氏をよく知ることからスタートしたいと思います。

父親 習仲勲氏を中央政界から追放して投獄した鄧小平氏 その宿縁の関係

習近平氏を理解するためには、その父親、習仲勲氏を知らなければなりません。

習仲勲氏は、中国共産党内の実力者でしたが、鄧小平氏によって、極めて残酷な刑に服された不遇の方だったのです。

第三期目に入った習近平氏が、その権力基盤を固めるうえで選んだのが、「新チャイナセブン」と称される人事です。

習近平氏を筆頭とする、李強氏、趙楽際氏、王こ寧氏、蔡奇氏、丁せつ祥氏、李季氏(日本語の当用漢字以外は、日本語読みのひらがなで表記しました)が、新チャイナセブンです。

彼らのうち、王こ寧氏を除く5名は、いずれも習仲勲氏と習近平氏に強い関係のある人材です。つまり、習近平氏は、父親の習仲勲氏から受け継いだ人材を、非常に強く信頼し、自分の権力固めに利用している方だと推測できるわけです。

習仲勲氏は、中国共産党の創始者 毛沢東氏の右腕の一人でした。

1935年、中国共産党軍は、蒋介石氏率いる国民党軍によって殲滅の危機に立っていました。残っていた共産党本拠地は、西北革命根拠地だけとなりました。毛沢東氏は、陝西省の延安を革命本拠と定め、革命戦争の反撃に出ました。そして、ここから大きく巻き返しを図り、ついに国民党を中国本土から追放し、台湾へと逃亡させるのに成功したのです。

そこで、毛沢東氏は、西北革命根拠地を構築した、3名の部下を非常に高く評価し、その後、中国共産党の重要人材として処遇しました。その一人が、習仲勲氏でした。

習仲勲は、毛沢東氏から、中国共産党の将来を託された、後継者の一人となりました。

しかし、毛沢東氏の死後、中国共産党の中では、反毛沢東派の動きが強くなります。文化大革命に対する世界の批判を後ろ盾にして、改革開放路線を唱えた鄧小平時代が到来します。

西側諸国からは、鄧小平氏は、改革開放路線を進めた、非常に優れた政治家であると見られています。

しかし、一方で、この改革開放路線に中国の大舵を切るために、鄧小平氏は、中国共産党内部で、かなり残酷な粛清をした人物でもあるという事実もあります。

鄧小平氏は、自分の権力を固めるため、毛沢東氏が高く評価をした習仲勲を権力の座から引きずりおろしました。文化大革命の後、習仲勲氏は、長らく投獄され、1978年に政治復帰を果たしたのちも、赴任地は、当時まだ荒れ果てていた広東省でした。

僕は、URVグローバルグループの中国の拠点を香港に持っており、その隣の深圳のIT企業に投資を行って、情報化支援事業を進めています。この深圳で活動していると、当時、広東省という辺鄙なエリアに押し込められた習仲勲氏が、深圳を「経済特区」として造り上げていった業績が、地元の経済人たちによって語り継がれています。

習仲勲氏は、北京の中央に対して、中央の権限を移譲してほしいと懇願し、相当な苦労をして深圳の経済を構築していきました。

深圳は、中国初の経済特区であり、その手法は、今や世界の新興国が経済力の勃興のための先進国の企業投資を呼び込む代表的な手法になっていますが、この手法は、鄧小平氏が造ったものではなく、習仲勲氏が造った手法です。

結局、習忠勲氏は、中央政界に返り咲くことはなく、深圳に隠遁する形で2002年に生涯を終えました。

習近平政権の反腐敗運動に隠された、反江沢民

このような鄧小平氏の権力固めの中で、勃発したのが1989年の天安門事件です。

鄧小平氏は、世界から集中砲火のような非難を浴びるまでに事態が悪化した天安門事件の責任を問う形で、趙紫陽氏を中共中央総書記から解任。かわりに、習忠勲氏ではなく、江沢民氏を北京に呼び戻して、中共中央総書記に就けました。

ここから、鄧小平・江沢民路線がスタートします。

上海で書記をしており、上海の経済界と密接だった江沢民氏は、まさに金満政治を開始します。江沢民氏のネットワークは、アメリカや日本企業とも密接でした。

鄧小平・江沢民路線は、中国の改革開放路線として、アメリカ・日本からの投資を呼び込み、民間企業を潤し、まさに「世界の工場 中国沿岸部」を作りあげました。

日本やアメリカは、中国もこの路線の延長の先に、共産党が壊れ、民主的・自由主義的な国家が生まれると予想し、中国への投資を強化していったわけです。

しかし、ここに、日本やアメリカが見落としていた点がありました。

中国には、自由主義国家の基盤となる基礎教育が欠如していました。共産党幹部の子息が、地方政権の幹部を担い、そこに、アメリカや日本からの投資が溢れました。

1990年代のこの当時、僕は、アメリカのニューヨークの大手金融系コンサルティング会社のシニアコンサルタントの立場で、まさに、アメリカや日本の企業を支援するコンサルタントの立場で、中国を見ていました。

当時の中国の共産党幹部の振る舞いは、目に余るものがありました。

アメリカ企業や日本企業に公然と賄賂を要求し、自分の任地に御殿のような邸宅を築き、そこに呼ばれた僕たちが目にしたのは、美女をはべらせたハーレムのような、愛人たちの群れでした。

沿岸部の外資系と組んだ民間企業の発展とは裏腹に、内陸部出身者は、沿岸部でも奴隷のような労働を強いられていました。内陸部出身者は、上海や北京などの都市では、健康保険すら入れず、その子供たちに教育を行うことも絶望的でした。

共産党の幹部の子供たちは裏口入学で、どんなに馬鹿でもいくらでも大学に入れますが、地方出身者には、絶望しかないような国でした。

当時僕は、個人的に「こんなひどい格差の国が、果たして経済力だけで、まともな自由主義国になれるのか?」と強い疑問を感じていたのです。

この状態が大きく変わったのが、習仲勲氏の子息、習近平氏が、共産党の権力の中枢に上ったことでした。

習近平氏は、日本やアメリカでの評判とは裏腹に、中国の人民からは非常に人気が高いのです。それは、彼が父親の不遇時代、他の共産党幹部のような、賄賂を受け取り、共産主義を標榜しながら王侯貴族のような生活を送る、人民からは憎まれた共産党幹部ではなかったからです。

彼は非常に実直に人民の声に耳を傾け、中国の未来を真剣に考えた政治家として、登場したのです。

習近平政権の反アメリカ・反日思考の正体

習近平氏の政治は、先豊主義を掲げながら、前期的資本主義社会顔負けの腐敗を招いた鄧小平・江沢民路線の修正と打破でした。

そして、それと結託して、中国共産党を腐敗の極致に至らしめた、アメリカや日本の投資家を牽制し、中国独自の成長路線に国を乗せることにありました。

習近平氏の第一期は、まさにそのための大改革時代でした。

「虎もハエも同時に叩け」という、スローガンのもと、巨大な中国の隅々まで、腐敗した共産党の幹部を、徹底的に粛清をしたのです。昨日まで、美女をはべらした王侯貴族のような生活をして、地方に君臨していた政治家が、今朝には、強制収容所に連行されて二度と帰ってこない、という状態が、あらゆる地方で起き、アメリカや日本企業を震え上がらせました。

この政策に、僕たち投資企業側も驚愕しました。一つ間違えば、外国企業の幹部も、同罪として逮捕されかねないという危機感を持ち、アメリカ・日本企業は、当時、旧来の政治家とつるんだ責任者を国に呼び戻し、経営人材の入れ替えを図ったものです。

これにより、共産党の実力者たちは、徹底的に粛清されてしまい、鄧小平・江沢民時代にチカラがあった政治家は、ことごとく消え去ってしまいました。

これが、習近平一強体制を作った基盤になったのです。

そして、ある意味、習近平氏の反アメリカ志向は、鄧小平・江沢民路線を支持し、資本のチカラで中国を腐敗の極みに落とした、アメリカに対する反感でもあるのだと、僕は理解しています。

アメリカ的・日本的な資本と決別し、中国独自の社会と国際秩序へのチカラを築き上げるという習近平主義が、ここに誕生したわけです。

第四期・第五期も継続する可能性がある、習近平体制

習近平政権は、中国の中における、鄧小平・江沢民路線が生み出した政治腐敗と、格差に対するアンチとして誕生し、父親が仕えた毛沢東の共産主義革命の原点に回帰し、その腐敗を初期段階で、徹底的に粛清したところからスタートしました。

その段階で、鄧小平・江沢民路線を支えた共産党幹部は、腐敗分子としてことごとく政界から追放され、強制収容所へと送られてしまいました。そのため、今でも、習近平氏に対抗できる政治勢力が国内にありません。

今後、中国は、台湾問題や人口減少・経済成長の減速という難問に向き合わなければなりません。その中で、一帯一路によるグロ-バルサウス諸国に向けた投資や進出を加速させて、国際競争力を確保し、超大国アメリカと競っていけるかどうかの課題に、習近平一局政権によって取り組んでいくでしょう。

僕たち日本企業は、この中国を体制の異なる競争相手として意識しつつも、長期化する習近平政権と、それに基づく中国型民主集中制と、共存して共栄してゆくかを考えていかねばならないと思います。

本稿の著者

松本 尚典
URVグローバルグループ 最高経営責任者兼CEO

松本 尚典

  • 米国公認会計士
  • 総合旅行業務取扱管理者

日本のメガバンクを構成する大手銀行のシンクタンクで、経営コンサルタント職についた20代より、香港や上海に出張を重ね、中国全土を旅して回った。
現在、自身で投資する企業をグループとして、URVグローバルグループのオーナー最高経営責任者。URVグローバルグループの日本のホールディングス会社 株式会社URVプランニングサポーターズは、香港に支店を構え、隣接する深圳のIT企業にも投資を行い、中国でAI情報支援事業を展開する。
URVグローバルグループの中国大陸の拠点は、2023年現在、香港・上海・丹東に配置され、中国の各地域で、政界・経済界との太いパイプと人脈、情報網を保有する。

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