語学教育を柱にする立国戦略が、アジア一の金融センターを生んだ

多言語語学教育が中心の小学校教育

前回のコラムで、シンガポールでは、小学校6年生卒業時に行われる、PSLEが非常に重要であることを発信した。

前回のコラム「凄まじい教育立国」記事はこちら

シンガポールの家庭の子育てでは、母親たちに、「子供の人生の天王山はPSLE」とまで言われるほどに、小学校卒業時で人生が決まってしまうという、この試験。何故、シンガポールは、このような極端に早い段階で、子供の未来を選り分けてしまうのだろうか?

その答えは、このPSLEの試験の科目構造をみると、理解できる。

PSLEの得点配分は、70パーセント近くが、言語科目によって占められている。裏を返せば、語学教育を徹底して小学校教育の基本に置き、小学校卒業時に、PSLEの得点という結果を求めることにより、語学力が優れた学生だけが大学に集まる仕組みが、シンガポールの教育システムなのだ。

シンガポールの歴史を発信した、「その1 世界の貿易拠点 シンガポールの誕生」で述べた通り、シンガポールは、もともと、マレー人が住んでいたマレー半島の先端のエリアに、インドと中国の貿易中継点を創るという、イギリスのアジアビジネス戦略によって誕生したエリアである。そのため、マレー人の住んでいるエリアに、大量なインド系・中華系の人たちが、集まって構成された人造国家なのだ。

コラム「奇跡の富裕国家 シンガポールは、どうやって誕生したか?
~その1 世界の貿易拠点 シンガポールの誕生~」記事はこちら

したがって、その人口の構成は、構成率が多い順に、以下のような民族構成となっており、その利用する言語は、次の通りである。

  1. 中国人⇒母国語が中国語(母国語は、主に福建語。日本人が勉強する中国語である北京公語とは、かなり異質の中国語)
  2. マレー人⇒母国語はマレー語
  3. インド人⇒母国語は英語をはじめとする多様な言語(母国語の英語も、日本人が勉強する米語とはかなり異質の、インド系キングスイングリッシュである)

左から、中国人、マレー人、インド人の民族イメージ

このように、シンガポールは、他民族・多言語国家、ダイバーシティ国家なのである。そうなると、子供たちは、各々の家庭では、それぞれの別の言語を話して成長する。

このような中で、イギリスを宗主国とするエリアであるから、エリートは、イギリス英語を自由に使わなければならなかった。ところが、何しろ、狭いエリアで多言語が飛び交うわけなのだから、コミュニケーションや教育が、上手くいかないのである。

そして、言語も、まじりあう。その結果、シンガポール・イングリッシュ、シングリッシュという独特の英語が誕生した。

シンガポールでは、この独特の英語、すなわちシングリッシュを国家の正式な言語としたのである。そして、どのような民族であろうと、学校教育では、シングリッシュで教育を行うことにした。そうでなければ、共通の教育ができないわけだ。

そして、それに加えて、それぞれのコミュニティの言語でも、コミュニケーションがとれなければ、シンガポールでは仕事ができない。

このシングリッシュを共通語としながらも、多言語を駆使できる教育を早期に行い、中学以降の専門教育を受ける前提として、小学校で、徹底的なシングリッシュを中心とする、多言語教育を早期に行うことで、高等教育の統一的普及を図ったわけである。そのため、小学校では、多言語教育が行われ、その優秀な成果を残した子供たちだけに、高等教育を受けさせて、専門家に育成し、エリートとして、活躍させる厳しい教育システムが生まれたのだった。

マルチリンガルのエリートが生み出した、世界の金融センター

日本では、シンガポールの公用語は英語であると言われている。

確かに、その通りではあるが、シンガポールの強さは、英語(この場合、シンガポール特有のシングリッシュ)とともに、中国語(福建語)のバイリンガルが極めて多いことにある。

家庭で話されている言語に関わらず、小学校で徹底した英語教育が行われており、英語の読む・書く・聞く・話す、の四技能が優れていることが確認された子供たちだけが、大学へのパスポートを受けることで、大学では、英語による教育が行われている。その結果として、アメリカやイギリスの名門大学院への留学が、はるかにしやすいのだ。

それはとりもなおさず、MBAや、金融工学、ITなどの高度専門技能を習得しやすいことを意味する。

このような人材が、シンガポールがアジア最大の金融センターに成長する原動力になったことは間違いない。

例えば、日本は、2020年に起きた新型コロナ禍で、これまで膨大な予算をかけてきたデジタル化が国家レベルで機能しないことを、世界に晒した。国家公務員や地方公務員が、デジタルに弱く、システム開発を、業者に丸投げをするしかないほどに、ITスキルが弱いことが原因であった。

これは、日本人が、圧倒的に英語力に弱く、留学というものを「語学留学」とイコールだと考えているほどに、レベルが低いことと無関係ではない。IT教育の聖地であるアメリカ留学によって、最先端の学術を習得するに、日本人の英語力では、ネイティブに太刀打ちできないことが、大きな原因である。

留学とは、その留学先のエリアの言語が、ネイティブと同様に使えることが前提で、そのエリアの大学で自国の大学よりも高度な教育をうけるためのものであるはずだが、日本人は、留学で語学を習得に行くものと考えている人が多い。行ってから、教育の基礎である語学を学んでいるのだから、高度な教育についていけるはずがない。それでは、到底、自分が受けたことがない高度な技術や知識、思考力の錬磨を、留学先で習得できるはずがないのである。

日本に、アメリカ西部のシリコンバレーと肩を並べる、中国の深圳、インドのバンガロールなどのようなITの聖地ができないのは、日本人の英語力の低さに根本的な理由があると、筆者は考えている。

話をシンガポールに戻そう。

シンガポールが、小学校を徹底した語学教育の場とし、その成果がトップクラスでない学生を大学教育から締め出すことによって、大学教育を、英語のネイティブの大学と同水準の教育を行うことを可能としたのである。

そして、更に、その学生の殆どが、中国語にも精通していることによって、シンガポールは、アメリカのニューヨーク、イギリスのシティ、香港、上海などと自由に意思疎通ができるエリートたちが、国や企業に入ることによって、アジア最大の金融センターへのインフラを整備したのである。

これが、シンガポールをアジア最大の金融センターへの成長させた原動力であったのだ。

続く

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