さて、今回のコラムは、ベトナムへの販売流通業や、サービス業の進出の話題について発信したい。
ベトナム進出は、絶好の好機であるが、レッドオーシャンである
結論から言えば、今、ベトナムでの販売流通業や、サービス業への進出は、外部環境的に絶好の好機にある。一方、外部環境的な絶好の好機というのは、勿論、進出をしようとするヒトや企業のすべてにとって、好機だということを意味するから、これから、外資による競争は、激烈を極めることを意味する。そのため、進出を検討する場合、一刻も早く検討を開始すべきだろう。
本当に、ベトナム進出は、今、スピードが重要だということだ。もたもたしていると、行ってみたら、もう既に競合企業だらけ、という事態にもなりかねない。まさに、ベトナムでの販売流通業とサービス業は、米国・中国・欧州・日本の外資系が、今、その市場を狙っている、最大のマーケットであり、したがって、「栄養分は豊富だが、巨大で凶暴な魚が泳ぐレッドオーシャンである」と言える。
このような中で、2020年から世界に押し寄せたコロナ禍は、ある意味、加熱するベトナム進出に適度な冷却水をかけてくれた、絶好の事態だったといえる。従って、コロナ禍が過ぎるアフターコロナでは、いち早く、情報を収集し、進出をはじめたほうがよいだろう。
販売流通業の規制 ENT規制の撤廃
消費者に直接商品を販売する小売業と、その卸売業が、販売流通業である。
このうち、まず、店舗を構える「小売」の進出をする場合、ベトナムでは店舗ごとのライセンスを取得する必要がある。また、ライセンスは、商品群ごとに取得をすることが必要だ。店舗を出せば、自由に商品の販売ができる資本主義国とは、ここが違う。
ただ、このライセンスは、外資企業にとって、それほど、困難な手続きではなく、きちんとした進出コンサルファームを通せば、ライセンスの取得は可能だ。
問題は、店舗を2店舗以上出店する場合である。通常、小売業で進出をする場合、販売商品の在庫をベトナム内に持たねばならないため、外資企業が、1店舗で採算をとるのは困難だ。そこで、2店舗以上の出店計画をするのが当然だろう。
ここにかかってくる規制が、ENTである。ENTとは、エコノミックニーズテストの略である。このENTが、これまで外資が通過するのが、なかなか、困難だった。しかし、ベトナムがTPPに加盟し、CPTTPの公約で、このENT規制が、2024年をもって、廃止されることになった。
これで、外資企業が、今後、ベトナムに進出することを、極めて容易にすることになる。
ただ、これは、一方で、世界の巨大小売流通業が、ベトナムを市場として、2024年以降、進出をしやすくなることを意味する。
僕は、ホーチミンでは、2024年以降、消費者の消費生活が、外資系の店舗出店攻勢で、激変するのではないかと予想している。東南アジア特有のパパママショップが、現在でも、ホーチミンには多いが、これが、外資系小売業によって淘汰され、消費者の利便性や生活水準は、劇的にあがりだすのではないかと考えている。
この生活水準の向上が、中上級の外食などのサービス業で、これまでのベトナムの賃金水準では難しかった業態の進出を後押しすることになるだろう。
ベトナムのTPP加入による、2024年のENT規制の撤廃は、ベトナムの賃金水準の急上昇に伴って、ベトナム人の消費生活を大きく、急速に上昇させる可能性が高いと僕は、考えている。
外食産業・サービス業、建設業、IT業などの進出
サービス業の場合、外資企業に禁止されている業種はごく一部。条件付き業種は、2020年のコロナ禍の直前段階で、240業種存在する。ただ、この条件付き業種も、WTOやCPTPPにおけるベトナムの公約で、年々、規制が緩和されてきており、ここでもまた、外資系の競争が極めて激化する要因になるだろう。
既に、不動産業などは、さまざまな条件付きで外資に開放されており、外食産業や人材紹介業も、現在、規制がほぼなくなった。
僕の人脈の日系企業でも、外食や人材紹介・不動産で進出し、活躍する日本人が、ホーチミンでは、既に多数いる。100%外資の独資で、会社の設立が可能になっているのだ。
そして、今後、海外進出が最も難しい教育産業や、建設業、エネルギー産業などでも、今後、規制が見直される予定である。
また、2010年代に流行した、日本のIT分野のベトナムオフショア開発で、既に、多くのIT企業が進出済で、ベトナムの労働力・技術人材に着目したビジネスは、コロナ禍の現在も、増え続けている。
まさに、ベトナム進出とは、この政府の規制によって抑えられていた外資の規制が、いつ外れるか、という情報戦といってもよいのだ。
ベトナムにおける販売業やサービス業(非製造業)の賃金水準
(以下の記述のうち、ベトナムの通貨ドンと日本円の水準は、1ドン=0.0044円にて計算している)
ベトナムへの製造業進出は、特集 ベトナムに進出する5 ベトナムへの製造業進出最新情報で発信した通り、EPEを活用したものが中心であったため、外資系企業はベトナムの安い賃金を想定して進出の意思決定をしている。そのため、ベトナムの賃金水準が急上昇している現在、製造業の進出には逆風となっている。
一方、販売業やサービス業の場合、人件費の上昇は、コスト増大という面はあるも、一方、賃金上昇による消費力の増大は、販売力や価格の上昇という側面もあるため、むしろ、チャンスになっている。
ベトナムへの進出が、製造業にくわえて、販売業やサービス業などに移っているのは、まさに、賃金の急速な上昇が直接の要因であるといって、差し支えないだろう。
法定の最低賃金(年2回改訂)/法定の最低賃金上昇率
2020年月給(ドン)
等級 | 基本 | 職業訓練を受けた者 |
---|---|---|
I | 4,420,000 | 4,729,400 |
II | 3,920,000 | 4,194,400 |
Ⅲ | 3,430,000 | 3,670,100 |
Ⅳ | 3,070,000 | 3,284,900 |
賃金上昇率
等級 | 2015~2016年の賃金上昇率 | 2016~2017年の賃金上昇率 | 2017~2018年の賃金上昇率 | 2018~2019年の賃金上昇率 | 2019~2020年の賃金上昇率 | 2015~2020年の賃金上昇率 |
---|---|---|---|---|---|---|
I | 113% | 107% | 106% | 105% | 106% | 143% |
II | 113% | 107% | 106% | 105% | 106% | 143% |
Ⅲ | 113% | 107% | 107% | 105% | 106% | 143% |
Ⅳ | 112% | 108% | 107% | 106% | 105% | 143% |
(出典:法令よりEOE計算)
この表が示す通り、2015年以降、ベトナムの法定賃金は、年間にどの職種も、5%以上上昇を続けている。2015年から2020年までの5年間で、賃金は、143%、すなわち、およそ、1.5倍に上昇した。
日本は、この間、賃金が殆どあがっていないため、日本人が日本国内での感覚で、ベトナムをみると、失敗するのは、この急激な賃金上昇の感覚についていけないためである。
職業訓練をうけたⅠ等級の者でも、2020年における月額賃金は、4,729,400ドン(日本円にして、20,809円)と格安だが、2015年には、これが3分の2程度であったことから、いかに急速に賃金があがっているかが、わかるだろう。
このように急速に賃金があがっているため、非製造業でも、この法定賃金で雇用ができるとは考えないほうがよい。労働者は、賃金が高い職場にどんどん移ってしまうため、実際には、「月給20,000円で管理職が雇える」という誤解をしないほうがよいのが、ベトナム社会の、今である。
このコラムを書いている、2021年現在の感覚でいえば、ブルーカラーの最低給与水準でも、月給で25,000円以上というのが、現場での感覚ではないかと思う。
またホワイトカラーの場合、この法定賃金をあてはめて、月給を決める日系企業は、まずないとみて、間違いないだろう。
ベトナム人の労働者は、「今日よりも明日、明日よりも明後日」がよい暮らしが出来ると考えて、少しでも、よい条件の勤め先があれば、移っていくため、雇用条件で労働者に有利な条件を出し、かつ、売上の上昇に応じて、条件をどんどんあげていく形をとらなければ、労働者の安定的な雇用は望めないと考えるべきだろう。究極の、人材獲得競争社会になっている。
しかしながら、それでも、国民1億人の平均年齢が31歳で、月給20,000円代で若いヒトが雇え、加えて、極めて強い消費意欲に裏付けられて経済成長をとげるベトナムは、業種を超えて、圧倒的な競争力の源泉に繋がるため、日本企業をはじめとする外資系企業は、ベトナムが非常に魅力的なエリアであると観るのは、当然である。
すぐ南にある、シンガポールでは、日本よりも国民一人当たりの所得が高いことを考えると、現在のベトナムの賃金を活用して、競争力に繋げたい企業が多く進出をするのは、うなずける。
続く
本稿の著者
URV Global Mission Singapore PTE.LTD President
松本 尚典
- 米国公認会計士
- 総合旅行業務取扱管理者
米国での金融系コンサルタント業務を経験し、日本国内の大手企業の役員の歴任をえて、URVグローバルグループのホールディングス会社 株式会社URVプランニングサポーターズ(松本尚典が100%株主、代表取締役)を2015年に設立。
同社の100%子会社として、日本企業の海外進出支援事業・海外渡航総合サービス事業・総合商社事業・海外の飲食六次化事業を担う、URV Global Mission Singapore PTE.LTD(本社 シンガポール One Fullerton)を2018年12月に設立。
現在、シンガポールを東南アジアの拠点として、日本企業の視察・進出・貿易の支援を行う事業を率いている。
ベトナムのTPP参加による、飲食事業等・サービス業の規制緩和を受けて、ベトナムへの飲食事業進出・食材の貿易事業・ベトナム飲食事業進出コンサルティング事業・ベトナムビジネス視察支援事業のため、2021年9月にホーチミンオフィスを開設。
海外進出支援事業のご紹介
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日本人のグローバルビジネスの経験を積んだスタッフと、現地情勢や言語に精通した現地スタッフがチームを組み、クライアント企業と共に、現地で汗をかきながら、海外進出の成功に向け、共に取り組む。
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