三つの「鎖国」衰退国家 日本
東京大学名誉教授で、国際政治学者の北岡伸一先生が、「今の日本には、2つの鎖国がある」とご指摘をされておられます。
一つは、「右の鎖国」
もう一つが、「左の鎖国」
右の鎖国というは、現在の日本に広がる歪んだナショナリズムのことです。
「日本というのは、いかに凄い国であるか」、ということと、「嫌韓」・「嫌中」をネットで言い立てて、それに迎合する大衆的・扇動的な有名人やタレントがもてはやされることを、北岡先生は、「右の鎖国」と呼ばれます。
左の鎖国というのは、世界の現実に目を背けて、憲法9条に立てこもることです。
憲法自衛隊のPKOなどの活動を、1930年代から40年代におきた日本の中国やアジアへの侵略戦争と同一視して、すべて反対する活動を、北岡先生は、「左の鎖国」と呼ばれました。
僕が思いますには、最近では、これに「コロナ鎖国」までが加わっています。
コロナ禍を非科学的かつ過剰にあおりたて、国内ではヒトが、自由に仕事や移動を行うことを敵視し、ワクチン接種に異常な忌避行動を行い、これを盾にとって国や地方に対する過剰な支援金を要求する、そして、海外から入ってくるすべてのヒトを国境で停めるべきと主張する、世界から「鎖国」と批判される日本の状態。
人口ボーナスが最も高く、日本が世界のトップに立つかに思えた1980年代から、失われた30年を経過し、既に、すっかり国力を落としてしまった日本と、意欲と自信を喪失した日本人。
それが、過剰な自己評価や、近隣諸国への批判、何でもかんでも憲法に閉じこもる異常な護憲精神や、過剰な国家への支援金依存を生み出しました。
日本人の、このような傾向は、鎖国の中に閉じこもり、島国のガラパゴス化へのまい進を生んでいます。
グローバルな思考と活動を阻む、日本のメディアのバイアス
こんな日本の国内での、メディアの報道にも、また、これらの鎖国を主張する大衆的な発信者に迎合するバイアスがかかります。
米中対立を、すべて、自由主義陣営対独裁陣営と位置づけ、あたかも、昔の時代劇のように、「いいもの」対「悪者」、というような、バイアスのかかった報道が行われている状態で、中国をすべて批判して報道する姿勢です。
この国の、ガラパゴス・メディアに情報の収集を依存していると、世界の情勢を正確に把握して分析することができなくなります。
世界の半数を超える国家は、独裁主義陣営に位置しますので、これを、すべて、自分たちが嫌いな「中国と同じ悪者」と位置付けていたのでは、グローバルな思考も活動も停止してしまうでしょう。
そして、今、僕が、ここで書いているシンガポールは、まさに、独裁陣営の成功事例ともいうべき国家なのです。
だからこそ、アメリカのトランプさんは、北朝鮮の金正恩さんとの第一回会談を、シンガポールに選んだわけです。
「あなたも、国を開いて、独裁国家の成功事例であるシンガポールを目指さないか」、というのが、トランプさんの当時の金正恩さんへのメッセージだったわけです。
僕たちのように、グローバルな視点にたって思考し、活動をする者は、右の鎖国からも、左の鎖国からも、コロナ鎖国からも自らを解き放ち、世界の本当の情報を、しっかりと見据える覚悟をもたなければなりません。
シンガポールは、独裁国家の利点を活かした、「自由な国」だ
ちなみに、シンガポールは独裁国家ではありますが、経済的自由の側面では、日本よりもはるかに自由な国です。
シンガポールの中心地 シティホールを歩いていると、このような自動販売機が、ところどころにあります。
これは、しぼりたて生ジュースを販売する自動販売機です。
御覧いただくとわかるように、中に、生のオレンジが入っています。おカネをいれると、この自動販売機が、自動でオレンジの皮をむき、その中のオレンジを絞って、それが、ジュースになって出てくる仕組みです。氷もでてくるので、冷たい状態で、すぐに呑めます。
シンガポールは、赤道直下の常夏の国。
歩いているときに、この自動販売機を見つけると、僕は、ジュースを買ってしぼりたて生果汁を楽しみます。
日本の生ジュースは、有人の販売店でしか売っていません。これは、保険所の許可が、日本ではおりないためです。フルーツの皮をむいて、それを絞る生ジュース製造は、調理に属するため、日本では、規制に阻まれて、この自動販売機での販売方法は認められません。
日本の有人の生ジュースの販売店では、そのため、しぼりたてジュースではなく、セントラルキッチンで製造された液体を、生ジュースと言って、売るしか方法がありません(僕は、日本のあれは、生ジュースとはいえないと思っています)。調理には、衛生管理者の常駐も要件になっています。しぼりたてでもない生ジュースが、人件費コストが乗っているため、日本では非常に高いですよね。
消費者は、自動販売機で製造して売れるものを、過剰な規制(と僕は思っています)のために、セントラルキッチンの設備や、人件費をわざわざ乗せた高コストで、買わされています。
シンガポールでも、勿論、食品衛生行政は非常に厳しいですが、日本のような、一律に規制をするような制度ではありません。
そのため、シンガポールのこの自動販売機では、生ジュースが、ほとんどペットボトルのドリンクと大差ない価格で購入することができるのです。
シンガポールでは、高級車が自動販売機で買える
さて、次の写真。
この建物、なんだかわかりますか?
これは、高級車(中古車)の自動販売機です。
建物全体が、中古高級車の自動販売機になっているのです。
では、日本では絶対できない、高級車の中古車の自動販売機販売が、何故、シンガポールではできるのでしょうか?
この話から、日本とシンガポールの行政の差がみえてくるのです。
車検制度がない
シンガポールでは、車検制度が存在していません。
車検制度は、日本では車の安全を守る仕組みではありますが、それは、実際には、自動車業界における権益の維持や、新車販売への促進のために温存されている側面もあります。
シンガポールが、このような業界の既得特権を許さないのも、業界団体が与党政党を支える政治資金源となっている日本とは、違う部分です。
民主主義には、選挙制度の中における岩盤の支持母体があってはじめて安定するという「負の側面」があります。現在の日本のように、若者を中心とした無党派層の、選挙への投票率が低い社会の場合、支持母体が固い既得政党が政権に固定化します。そのため、政治が、その支持母体の既得権益を死守する方向に動きやすくなります。
今の日本の制度が、あらゆる分野で存在する岩盤規制を破れないのは、このような成熟した民主主義の負の側面の影響です。
車検制度がないシンガポールでは、中古車のナンバープレートを簡易なネット上の手続きで、変更することができるため、中古車販売で、車の譲渡を行う手続きが、非常に簡単です。
但し、車検制度がないかわりに、車の安全維持に対する個人の責任は、極めて重いのがシンガポールです。安全点検義務違反で、交通事故が発生したりすれば、その刑事責任損害賠償責任は、日本とは比較にならないほど、大きいのがシンガポールです。
業界の権益保持が見え隠れする、行政の事前規制で、違反ができないようにがんじがらめにして、自由を制約する日本。
自由である代わりに、自己責任が重く、その義務違反には、極めて強いサンクションが加わるシンガポール。
この違いが、車検制度の存否に現れています。
車庫証明もいらない
車検制度と同等、日本で言う車庫証明もシンガポールではいりません。これも、中古車売買が、簡易にできる理由です。
車庫証明というものも、また、日本では、不動産を賃貸する業者の既得特権を保護する方向に働く岩盤規制のひとつです。
自宅からの一定距離にある車庫を確認し、届けなければなければ、日本では車は買えません。
シンガポールでは、勿論、自動車はこのような確認なしに自由に売買ができる代わりに、路上駐車などの罰金や違反のサンクションは、桁外れに大きいのです。
車庫証明などの規制をいくら課しても、サンクションが緩いために、路上駐車が多い日本。
車庫証明もないのに、国中、どこへいっても、路上駐車の車が見当たらず、車を非常に快適に走らせることができるシンガポール。
ここでも、この違いが見えます。
クレジットカードの限度額が規制されていない
日本では、民主党政権下で成立した、個人に対する総量規制の影響で、個人の年間所得の約3分の1を超える借り入れを、カードローンや消費者ローンを利用して行うことはできません(事業の借り入れや住宅ローンを除く)。
この総量規制は、クレジットカードによる買い物などには及んでいませんが、日本のクレジットカードには、消費者には知らされずに、利用の制限がかかっています。
従って、例え、ブラックカードレベルのクレジットカードを持っている方でも、日本では、車のような高額な買い物をクレジットカードで行えないようになっています。
よく「ブラックカードは、飛行機でも買える」などと、ブラックカードを持ったことがないヒトは、都市伝説のような無知なセリフを言っています。しかし、日本で発行されるブラックカードでは、実際のところ、自動車のディーラーでは、自動車ですら販売しません。
高い年会費をとる割には、日本のブラックカードには、外部からわからないように、規制がひかれており、正直、日本ではブラックカードは、使い道が、かなり限定されます。
確かに、個人破産は、自分の資力を自覚せずに、カード会社が利用額によって送ってくるDMで、ブラックカードを作っている層で、非常に多く発生していることは事実です。
日本では、ブラックカード保有者は、金持ちなのではなく、クレジットカードの多額の利用者で、個人破産予備軍の可能性が高い層です。
従って、カードの利用規制にも一定の理由があります。日本のカードの利用規制を、個人破算を防ぐ適切な法規制とみるか、「余計なお世話」とみるか、見解がわかれると思います。
一方、シンガポールは、全国民の家庭の10%が、資産10億円を超える富裕国家です。国民一人当たりの所得は、はるかに日本を上回っています。
クレジットカードの利用に関しても、総量規制はありません。勿論、そのために個人破産をする人は多いですが、それも、自己責任と把握されています。
そのため、日本円で数千万円する高級車を、ローンを組む手続きを踏まずに、クレジットカードで一発で購入し、その後、カードの分割払いやリボを利用して返済するということができます。
事前規制が少なく、自己責任で自由に活動できるシンガポール
以上でみてきたように、しぼりたて生ジュースから、高級車まで、自動販売機で買えるというインフラは、シンガポールには、事前規制が非常に少ないことで実現されています。
日本という社会は、自由主義社会であると、日本人は思っていますが、僕のように、海外をベースに活動をする日本人から観ると、それはまったく違います。
日本は、国民が全くそれと意識していない、究極の社会主義国家です。そして、経済的自由に関していえば、独裁国家よりも、自由が少ない国家です。
長期政権化して事実上の独裁となった与党を支える既得権益により、強い事前規制が存在し、それが岩盤規制となって崩れません。そのため、ニューノーマルを目指すための新しいことを始めようとすると、あらゆるところで、この規制に阻まれます。
一方、シンガポールは、独裁政権ながら、小国特有の危機意識を共有しているため、事前規制が殆どありません。そのため、政府機能が小さく、コストも安いため、税金が圧倒的に安い国です。
この規制がないことと、税務負担が圧倒的に安いということから、アメリカ・EU・中国、そして日本から、勝ち組の投資家が集まり、その資金力が、シンガポールの豊かさを支えています。
勿論、その反面で、自己責任意識が強く、弱者救済的な社会主義的なインフラは、ほとんどありません。
「この国は、お金持ちと自由な事業家にとって、天国のようなところだ。」
これが、シンガポール人たちが、自分の国を表現するときに用いる言葉です。
そして、この自由な天国故に、僕もまた、このシンガポールに海外での拠点の企業を設け、シンガポールを経済的な基盤として、活動しているのです。
法人税は格安で、損金計上の必要性がないため、会社は利益を税金対策のために消費する必要がなく、大きな内部留保を短期間で構築することが可能です。そのため、投資力の高い優良な企業を造りやすいのです。
利益が出れば、法人税・法人地方税・都道府県税・市町村税と、何重にも利益に課税を行っていく日本の場合、企業は、税金対策で損金となるおカネをつかわざるをえません。そのため、多くの中小企業が節税のために、赤字の装いを纏っているのが日本です。
これでは、本当に力のある中小企業が育ちません。
日本を選びますか? シンガポールを選びますか?
あなたは、どう思いますか?
日本の人口は、毎年平均70万人以上減少をし続けています。これは、岡山市の人口に匹敵する量です。毎年、岡山市が、ひとつずつ消滅しつづけているのと同じくらい、人口が減少し、マーケットが減少を続けているのが、日本です。
そして、2040年には、2022年と比較して170万人の人口が日本から消えます。これは、2022年の東京都の人口を超える数値です。つまり、2040年には、2022年の日本から東京都の人口が消えたヒトしか、残りません。
経済力の弱まりからくる、3つの鎖国の意識はますます強くなり、優秀な外国人を大胆にとりいれる政策は実現しないでしょう。ますます未来に対する不安が大きくなる中、子供の出生数が増えるとも思えません。
生産性は、人口減に必ずしも比例しないでしょうが、消費をするのはヒトしかいません。
AIが生産性を向上させても、AIには消費はできません。
この国での、企業の販売力は消費の漸減の影響を受け、おちてゆくことは容易に想像できます。
岩盤規制にしがみつく様々な既得権益のチカラを政治的に打破できずに、コロナ禍のような危機も世界からみて、大きく「敗戦」した日本が、漸減する力を回復する画期的な処方箋を編み出すことはできないでしょう。
このような経営者的な視点から、僕は、事業の基盤を、日本とともに、海外に持っており、むしろ、海外を中心に事業の売上をシフトさせています。
その拠点に選んでいるのが、このシンガポールなのです。
ここでは、規制が少なく、自己責任と引き換えに、自由な活動ができます。そのため、世界の大企業が現地法人を構えて、アジア戦略をここから発信しています。
皆さんは、これからの日本を選びますか?
それとも、シンガポールを選びますか?
続く
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著者の松本尚典が、直接、ご返信で回答させていただきます。
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本稿の著者
URV Global Mission Singapore PTE.LTD President
松本 尚典
- 米国公認会計士
- 総合旅行業務取扱管理者
米国での金融系コンサルタント業務を経験し、日本国内の大手企業の役員の歴任を経て、URVグローバルグループのホールディングス会社 株式会社URVプランニングサポーターズ(松本尚典が100%株主、代表取締役)を2015年に設立。
同社の100%子会社として、日本企業の海外進出支援事業・海外渡航総合サービス事業・総合商社事業・海外の飲食六次化事業を担う、URV Global Mission Singapore PTE.LTD(本社 シンガポール One Fullerton)を2018年12月に設立。
現在、シンガポールを東南アジアの拠点として、日本企業の視察・進出・貿易の支援を行う事業を率いている。