URVグローバルグループ 最高経営責任者の松本 尚典が執筆する、国際ビジネス小説「頂きにのびる山路」を連載で掲載します。
この小説は、フィクションであり、登場する企業や個人は、実在するいかなる企業や人物とも、関係がありません。
また、この小説に登場する、ビジネスや金融に関する手法に関して、その採用をされるのは自由ですが、それは読者の皆さまの自己責任で採用頂くものであり、その結果の成功を、このサイトの主催会社及び著者は、なんら保証するものではありません。
ドキュメンタリー企業小説「頂きにのびる山路」目次
転職編
渋谷・宮益坂の緩い傾斜を登っただけでも、9月の東京の熱気で、スーツの内側に汗がべっとりと纏わりつく。ワイシャツの襟元に汗が溢れる。
午後の時間、こうして都心の路をしばらく歩いていたら、ネクタイの結び目が、汗を吸って、コンクリートのように凝固するだろう。今夜は、これを解くのに一苦労するに違いない。…
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山之辺伸弥が阿部と会った翌日。
人材紹介会社である株式会社バリューフェス・キャリアの溝口香里から、山之辺は、美月林業取締役人事部長との面接設定ができた旨の連絡を受けた。
そして、山之辺は、約束の日、新宿駅南口の指定された待ち合わせ場所に向かった。
その日も、まだ照り付ける太陽がまぶしかった。
約束の時間15分まえではあったが、株式会社バリューフェス・キャリアの阿部洋次社長は、既に、照り付ける太陽の下で、山之辺を待っていた。…
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美月林業の神崎健一人事部長による、山之辺伸弥の面接から1ヶ月後。東京は、秋の気配が感じられる季節になっていた。
喧噪が埋め尽くす新宿歌舞伎町に建つビル。ここに押し寄せてくる外国人観光客や酔っ払いを寄せ付けないかのように、一見の客が入れない門構えを見せつける建物の奥。そこにあるエレベーターで、4階まで登ったところにある、料亭 薫林坊総本店。
株式会社バリューフェス取締役の阿部洋次は、その夜、同社営業システム部長・執行役員の水谷隼人を、この料亭に招いていた。
4階のエレベーターを降りると、下界の歌舞伎町の喧噪が嘘のように消え、琴の演奏曲が流れる静寂の空間が出現する。
阿部が予約した個室には、江戸時代を代表する名画家 谷文晁の掛け軸が床にかけられていた。
几帳面な水谷は、約束の15分前にここに到着し、株式会社バリューフェスの上席でもある阿部を、予約された部屋で、律義にお茶をすすりながら、待っていた。…
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株式会社バリューフェス・キャリアの社長室。
阿部洋次社長は窓際に立ち、そこから遠景に見える、新宿の高層ビル群を睨みつけていた。渋谷から観る新宿の高層ビル群は、西側から、暮れかかった日の光を浴びていた。別室には、来社した山之辺伸弥を待たせてある。
阿部洋次が、山之辺伸弥を営業担当の人材として紹介した、住宅メーカー大手の美月林業からは、山之辺を本人の希望通りの年俸で、現場営業職として、何としても採用したいという打診が、阿部に来ていた。
仮に、山之辺が、数千万円の年俸を提示し、阿部がバリューフェス・キャリアの紹介報酬を、その年俸の40%という、人材紹介手数料相場の最高率で交渉したとしても、美月林業は、喜んでその条件を呑むだろう。
しかし、阿部は、山之辺を美月林業に渡すつもりはなかった。…
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料亭「鳥金」は、名古屋コーチンの名店として、名古屋の錦に本店と料亭店舗を構える老舗だ。その東京銀座店に、阿部洋次は、山之辺伸弥を伴って入った。
「ここの名古屋コーチンの鍋は、最高に美味いんだよ。僕は、名古屋支社の支社長を3年間、やっていたんだ。ここの、味噌味の鍋が、たまらなく好きでね。名古屋赴任中、よく単身で、ここの本店カウンターに座り込んで、この鍋をつついていたもんです。」
阿部は、席に着く前に、山之辺にそう語った。半個室の席には、来客の用意が3名分、整っている。阿部と山之辺の2人は、席に座ると、阿部のお勧めの鍋を始めずに、名古屋コーチンの刺身を肴に、獺祭の冷酒で、まずは乾杯した。…
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韓国クラウドビジネス編
表参道を歩くビジネスマンも、殆どがスーツ姿となり、固くネクタイを締める季節となっていた。その表参道のインテリジェンスビルの最上階に入る、株式会社バリューフェスの本社。既に、大井川社長が使用する社長室の入口に、新たな業務スペースが設けられ、真新しい机と椅子が配置されていた。
天井から下がった部署を示す掲示には、「社長室 コンサルティング・デビジョン」と記載されている。バリューフェス・キャリアから移動されてきた役員が使用する、阿部洋次の机の前には、2つの机の島が、今日からの稼働に備えて配備されている。
一つの島には、「経営コンサルティング・セクション」と看板に記載され、もう一つの島は、「海外進出コンサルティング・セクション」と表示されている。…
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ハロウィンの喧噪も渋谷を去り、寒さが身に染みる季節の、その日。株式会社バリューフェス 社長室コンサルティング・デビジョン執行役員の水谷隼人と、課長の山之辺伸弥は、羽田空港国際線ターミナルで、朝7時に待ち合わせをしていた。
山之辺は、朝6時には羽田空港に到着し、レストランで朝食を済ませて、水谷の到着を待ちあわせのゲート前で待っていた。住宅メーカーの営業マンだった山之辺は、仕事で、海外に出張するのは、これが、初めての経験だ。出張が決まると、山之辺は、大学の卒業前に、一人で、アジアを旅して回ったときに作ったパスポートの有効期限を確認。住宅メーカーで、トップセールスを張っていた山之辺には、仕事に入ってから、海外旅行にいくような時間的な余裕がなかったからだ。…
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ソウル出張から東京に帰った水谷隼人執行役員と、阿部洋次取締役の動きは速かった。
阿部は、かつての自分の部下でもあった坂田将副社長が、阿部の事業の不成功を演出して、阿部を、バリューフェスの役員から追い落とす魂胆を抱いていることを、とっくに見抜いていた。
坂田が取締役会で多数派工作を行い、阿部のビジネスモデルに、バリューフェスの営業現場の力を総動員することを封じる隙を坂田に許せば、せっかく、山之辺伸弥が段取りをして作りあげてきたビジネスモデルが、画餅に帰することになると、阿部は読んでいた。
奇襲作戦を、阿部はとるつもりだった。…
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副業飲食起業編
山之辺伸弥は、森隆盛との食事が終わると、トレンチコートの襟を立てて、新宿西口の、S高層ビルを出た。山之辺が向かったのは、銀座の会員制クラブ エルドラドを、2ケ月前に辞めた、山之辺の実姉、山之辺 優紀が料理の修行をしている、小料理 根室。銀座の、優紀の馴染みの客には、まず見つかることがない、都下の小さな小料理屋だ。
山之辺は、姉の優紀と共同出資で、これから出店する小料理屋の、料理の修行を優紀にさせるため、この店を、独りで経営する板前の秋本 豪に頼み込み、優紀に鮮魚の仕入れから、料理までを、短期間で修行させて貰っていたのだ。…
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静かに、夜のベルベットが、この銀座の街を覆う時間。
並木通りに、灯りがともりだし、高級クラブのママだと一目でわかる、美しい和服姿の女性も闊歩し始める。
その夜も、銀座5丁目のみゆき通りに面したビルの5階で、山之辺優紀が社長を務める、株式会社花月の、第一店舗「銀座花月」に灯りがともった。
開店前の2日間、花月では特別なご招待のお客様だけをお招きしての、お披露目の日を設定。その後、正式に開店をした。エレベーターホールには、銀座の有名クラブの社長やママから贈られてきた胡蝶蘭が所狭しと並んでいる。…
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あと数日で、梅雨入りとなる気象予報が出ていた。表参道のインテリジェンスビルの最上階にある、株式会社バリューフェスの副社長室。その窓からは、青山学院大学の洒落た校舎群が、水気を含んだ空気に、薄く霞んで見えている。この部屋の主、バリューフェス副社長の坂田将は、今、バリューフェスグループの企業の社員がすべて使用しているサイボウズ ガルーンを見つめていた。
開いているのは、社長室 コンサルティング・デビジョン 海外進出コンサルティングセクションのページ。
このページの最上位には、取締役デビジョンヘッドの阿部洋次の、びっしりと書き込まれたスケジュールが掲載されている。その下に、執行役員セクションリーダーの水谷隼人の予定。そして、その下に、今、坂田が観たい社員の予定が掲示されていた。…
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ニューヨークウォール街ビジネス始動編
成田空港発、ニューヨーク JFケネディ空港行きのJAL便は、鮮やかな夜の滑走路から、ニューヨークへ向けて、14時間の長いフライトに飛び立った。
山之辺伸弥は、はじめてのニューヨーク行きの航空機の中で、エコノミーのアイルシートに一人腰を落ち着け、ゆっくり、上空に向かって上昇する航空機の機内を見回した。
ビジネスマンが、2割ほど、か。
観光に出かける夫婦や、友人同志で腰かける人たちも散見される。韓国のGLU+とのビジネスで行き慣れたソウル便に比べると、海外旅行やビジネスで、国際線の長時間フライトに慣れた乗客が多い様子だ。…
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緯度の高いニューヨークの夏は、東京に比べて、格段に爽やかだった。
セントラルパークに生い茂る、マンハッタン島開拓前の原生林の面影を残す緑が、摩天楼に向かって、強い存在感を主張している。
ニューヨーク マンハッタン。
東部標準時間 午前9時53分。
ウォール街を象徴する超高層ビル 50ウォールストリートの43階にレセプションを持つ、
WwWコンサルタンツ ニューヨーク本社を訪問した、阿部洋次・水谷隼人、そして山之辺伸弥の3人。
彼らは、その時間に、43階のレセプションから、WwWコンサルタンツ社内専用エレベーターで、48階の幹部コンサルタントの個人ブース専用フロアーに案内された。…
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1.インサーダー情報
新大久保の裏通りにある雑居ビルの地下室にある柳原探偵事務所。
古い木製の机の上には、山盛りになったタバコの吸い殻の火に、コーヒーをかけて消した、すえた匂いが立ち込めていた。
その机に脚をのせて、柳原健一は、電話の先に繋がる、ニューヨーク ウォール街の、松木陽介から依頼を受けた報告事項の調査レポートを、指でつまみ上げた。…
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東京 副社長室にて
東京の冬の季節に、異常とも言える、巨大台風が近づきつつあった。既に、街路樹が葉を落としてしまった季節に、九州に上陸した台風が北上を続けていると、ニュースは警戒を呼び掛けている。
異常気象は、ここまで進んでいるのだろうか。
東京 表参道。株式会社バリューフェスの、副社長室。
隣にある、大井川秀樹が使用する社長室よりも、一回り小さい副社長室で、その主の坂田将は、応接の椅子に前かがみで腰かけて、眉間に皺をよせていた。
その坂田の前には、バリューフェスの現在の主幹事証券会社である、PPM証券の三浦智明が、分厚い資料を前に座っていた。…
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飲食事業成長軌道編
沖縄のリゾートにて
ゴールデンウィークが終わった5月の沖縄那覇空港は、観光の混雑が明けて、落ち着いていた。空港のあちこちで、修学旅行の中高生の団体が、楽しげに集っている。
山之辺伸弥と、山之辺が銀座に副業で経営する花月に務める奈美は、ANA便のスーパーシートから、ここ、那覇空港に降り立った。
銀座花月が開店して、あと少しで1年半。土・日・正月以外で、休みをとったことがない奈美に、花月で有給休暇をとらせて、山之辺は、沖縄に連れてきたのだった。
奈美は、同じく銀座花月に務める雪子と、かつてはレズビアンの同棲関係にあった。
その雪子が、山之辺が本業で務める株式会社バリューフェスの副社長 坂田将の愛人関係に入ってから、奈美と雪子の二人は、そのレズビアンの関係を解消していた。
そして、いつしか、山之辺と雪子と離れた奈美は、恋人の関係になっていった。…
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再び、沖縄恩納村のリゾート
山之辺伸弥と奈美が、東洋ヒルズ沖縄リゾートで、濃密なはじめての夜を過ごした翌日の午後。
5月の沖縄中部地方の季節は、既に夏。ゴールデンウィークが過ぎ去った平日のこの高級リゾートでは、滞在して過ごすヒトの姿もまばらに散らばる。
全室スイートの東洋ヒルズ沖縄リゾートの各部屋に備え付けられたプールには、満水の水が張られ、沖縄の紺碧の空を水面に映し出している。
山之辺と奈美は、東洋ヒルズ沖縄リゾートの表玄関が見えるメインロビーで、トロピカルドリンクを飲みながら、一台の車が到着するのを待っていた。今日の奈美は、水色で半袖のカジュアルなドレスを纏っている。
車寄せに、送迎のロールスロイスのリムジンが到着した。…
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山之辺と奈美が沖縄から帰っていてから、約半年が過ぎていた。東京は、その間に暑い夏が過ぎ、秋を迎えていた。
銀座5丁目のみゆき通りに面したビルの5階。山之辺優紀が社長を務める、株式会社花月の、第一店舗「銀座花月」。
その夜も、店の看板の灯りが消えた後、厨房に奈美は残り、料理の試作に励んでいた。…
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イタリア共和国の首都 ローマ。
イタリア中部の、地中海に面したこの街は、永遠の都と称される古代ローマの中心都市として、長らく世界の中心をなしていた歴史を持つ。…
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