シンガポールの水事情
前回の記事で執筆したように、1965年8月9日の、シンガポール建国は、シンガポールにとって、絶望の瞬間だった。
マレーシアから追放されたシンガポールには、国家として乗り越えなければならない難題が山積していたのである。
その最大の課題のひとつが、シンガポールの「水」事情であった。
今でも、シンガポールで仕事をしている我々が、何気なく、シンガポールのスーパーマーケットやコンビニで販売されていて、よく目にする「ニューウォーター」という種類の水がある。この水の実態を知っている日本人旅行者は、あまりいない。
「ニューウォーター」というのは、人間の排出した「下水」を、浄水した水のこと。そう、つまりは、尿も含む、つい先ほどまで、トイレの便器の中にあったであろう、水だ!
ゲー!!!
知らずにシンガポールに旅行に行った時、飲んでいた!
という、声が聞こえてきそうである(笑)。
これは、冗談ではない。ニューウォーター開発は、水の資源が壊滅的に乏しいシンガポールが、国家として真剣に取り組んできた国家プロジェクトで、政府は、国民にニューウォーターの使用や飲用を推奨している。
国土に水質資源が豊かな日本では、考えられない政策だ。つまり、そこまで水がない国、なのだ。
シンガポールは、そもそも国土が極めて平坦なエリアだ。従って、その国内に保水力が、殆どない。運河でない純粋な川は、シンガポール・リバーがあるだけだ。
水がそもそも乏しいことに加えて、建国後、著しい経済成長を遂げたため、移住してくる人や、旅行者が激増した。
シンガポール建国と、その経済発展のためには、まずは、この水問題をどうしても乗り越えねばならなかったのである。
「まず、水を制する」から、シンガポールはスタートした
1965年の独立と同時に、初代首相に就任したリー・クアンユーは、様々な難題に挑み始めた。そして、1972年に、ニューウォーターのマスタープランに着手する。
現在のシンガポールの水道から出てくる水は、世界でも珍しい、日本と同様、そのまま飲める水だ。
その内訳は、次のような合成になっている。
- 雨水
- マレーシアからの輸入水
- ニューウォーター
- 脱食塩水
もし、普通の国であれば、輸入水に頼るだろう。しかし、シンガポールは、100年先を見据え、マレーシアとの関係が信頼に値しないと考え、この輸入水の比率を下げるため、ニューウォータープロジェクト(つまり、下水を飲み水に変える計画)と、海水を飲み水に変えるプロジェクト(つまり脱食塩水計画)、そして、雨水を溜めるプロジェクトの3本を国家政策として推進を始める。
ニューウォーターが、完全に飲み水として浄化でき、供給が始まったのは、2000年だ。シンガポールは、このプロジェクトに28年もの歳月を費やした。21世紀には、汚水を5分間の浄化で、完全な飲み水に変えることができる技術生産レベルに達した。この技術では、シンガポールが世界最高の水準にある。
海水から完全に食塩を抜く技術も同様に、世界最高の技術にある。
そして、更に、シンガポールは、雨水に注目した。シンガポールに流れる川、シンガポール・リバー。現在は、美しい摩天楼の横を流れ、マーライオンの隣から、マリーナ湾に流れ下る川だ。
この川は、今でこそ、美しい、シンガポールの代表的な観光スポットになっている。しかし、独立の当時、この川は、マレーシア政府から見捨てられた、とてつもないドブ川だったのだ。マリーナ湾は、スタンフォード運河、そしてシンガポール・リバーが合流する地点にある。そこに、積りに積もったゴミと排泄物の悪臭は、想像を絶するものだったそうである。
当時を知る日系人から聞いたジョーク。
当初、シンガポール国家の象徴、マーライオンが、このマリーナ湾に設置された時、日系人は、そのあまりの悪臭に、マーランオンが、マリーナ湾に向かって、ゲロを吐いているのだと噂をした、そうである。
今の美しいシンガポールから考えると、信じられないジョークだ。
これに対し、リー・クワンユーは、シンガポール・リバーと、4つの運河 ゲイラン・リバー、カラン・リバー、ローチョ運河、そしてスタンフォード運河の、汚泥を完全に一掃する政策を、国家政策として取り組んだ。
この一大プロジェクトに、当時、300万シンガポールドル(日本円で2億4000万円)を投じたのだ。
そして、更に、凄いことに、シンガポール政府は、川の汚染に関わった6000世帯の家族、2800の企業や農場に、強制立ち退きを命じた。そして、世界に類を見ない、ゴミをポイ捨てしたら、厳罰に処するという法律を立法し、実行に移したのである。そう、我々も、シンガポールに入国する飛行機の中で、ガムをすべて没収される、厳しいゴミ敵視国家が、こうして生まれた。
日本なら、到底、このような政策を実行することはできないだろうが、ここが、独裁国家の強味でもある。
10年の歳月をかけ、ドブ川は、観光クルーズができるほどの美しい川に代わり、マリーナ湾は、美しい真水の水溜めとなったのである。
そう、マーライオンが水を吐くところは、海ではない!?
淡水の巨大な貯水池なのである。
そして、後に、この美しい貯水池のほとりに、ラスベガス・サンズ社が目を付け、世界が注目する、マリーナベイ・サンズが建築された。
水の政策は、世界有数の、観光政策に転換され、ここに世界の外貨が集まるようになる、シンガポールの象徴的風景が誕生したのである。
巨大な溜池 今の美しい姿を紹介
今、皆さんが観光やビジネスで訪問するシンガポールは、これまで書いてきた真実の事情を歴史の中に封じ込めて、本当に美しい姿を我々に見せてくれる。
とりわけ、マーライオン公園と、そのマーライオンが睨む対岸に位置するマリーナベイサンズは、シンガポールで、最も美しいスポットに変貌を遂げた。
僕が投資し経営する、URVグローバルグループは、2018年12月に、飲食六次化事業・海外進出支援事業・総合商社事業・海外渡航総合サービス事業を、東南アジアに展開する拠点として、シンガポール現地法人 URV Global Mission Singapore PTE.LTD.を設立し、本社を、マーライオンの真後ろのビル One Fullertonに入れて、営業活動を開始した。
URV Global Mission Singapore PTE.LTD.の詳細はこちら
URV Global Mission Singapore PTE.LTD
住所
1 Fullerton Road, #02-01 One Fullerton, Singapore 049213
事業内容
1 ASEAN経済圏に進出する各国企業の支援
2 ASEAN経済圏と各国の貿易事業
3 各国からのASEAN経済圏への視察旅行事業
会社概要はこちら
そのため、僕は、仕事でシンガポールに訪問をする際は、宿泊ホテルや、営業行動の拠点を、マーライオン公園から徒歩圏のエリア シティーホールに置いている。
URV Global Mission Singapore PTE.LTD.本社の窓からは、マリーナベイサンズの雄姿が臨める。
夜、仕事終わりに、One Fullertonから、ホテルのあるシティーホールに歩くと、ちょうど、シンガポールリバーサイドを川上にのぼることになる。
シンガポールリバーサイドの道には、シンガポール建国時代の商人や庶民の銅像が散在し、歩くには、とても楽しい。
シンガポールリバーサイドのシンガポール建国時代の商人や庶民の銅像
このコラムの前に掲載したシンガポールリバーの写真を見ていただくと、写真の右側のリバーサイドにたくさんの店が並んでいるのが判るだろう。このリバーサイドが、僕の「通勤」の道になるのである。
シンガポールは、熱帯に属する赤道直下の国である。
従って、年中、真夏だ。
ただし、日本の夏のように、湿気があるわけではない。リバーサイドを夜、あるくと、川面をわたる風が心地よい。そのため、このリバーサイドは、シンガポールに本社を置く欧米のビジネスマンたちが集まる、夜遊びのエリアになっている。
かつて、どうにも手をつけられないドブ川だったシンガポールリバーの大変貌が、よくわかると思う。
さて、One Fullertonから、対岸のマリーナベイサンズを眺めるに、最も素晴らしい時刻は、夜の7時あたりからだ。
マリーナベイサンズが、ほぼ毎晩行う、光のショーが観られる。
もし、日本の企業が、東京中の夜空にビーム光線などを発信したイベントを行ったら、おそらく、大変な非難の応酬にあうことだろう。
しかし、そこは、独裁国家の強味。
観光産業の振興のため、こういうことをやってしまうのが、シンガポールだ。
マリーナベイサンズの光のショー
そして、このマリーナベイサンズは、宿泊をしていないヒトでも、屋上のバーを利用できる。
まず夕方、ここにあがり、よい席を押さえる。
日本の高層ビルと異なり、柵がない(びっくり!)。
マリーナベイサンズの屋上からの夜景は、こんな感じだ。
マーライオンが水を吐く、巨大な溜池と、その周囲に広がる摩天楼から吹いてくる爽やかな夜風を楽しみながら、シンガポールスリングを傾けると、シンガポールで仕事をしている実感が、身体を満たしてくれるのだ。
これが、水の事情を乗り越えて変貌を遂げた後の、シンガポールの今の姿なのである。
続く
本稿の著者
URV Global Mission Singapore PTE.LTD President
松本 尚典
- 米国公認会計士
- 総合旅行業務取扱管理者
米国での金融系コンサルタント業務を経験し、日本国内の大手企業の役員の歴任を経て、URVグローバルグループのホールディングス会社 株式会社URVプランニングサポーターズ(松本尚典が100%株主、代表取締役)を2015年に設立。
同社の100%子会社として、日本企業の海外進出支援事業・海外渡航総合サービス事業・総合商社事業・海外の飲食六次化事業を担う、URV Global Mission Singapore PTE.LTD(本社 シンガポール One Fullerton)を2018年12月に設立。
現在、シンガポールを東南アジアの拠点として、日本企業の視察・進出・貿易の支援を行う事業を率いている。