副業飲食編 第6話「秘密同盟」

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株式会社バリューフェス副社長の坂田将が、山之辺伸弥の投資する、銀座花月を訪れた翌日の早朝。

山之辺は、バリューフェス本社の一番奥にある、副社長室を訪れた。部屋の前にある秘書の机で、坂田に挨拶をしたい旨を告げ、秘書が、社内電話で坂田に山之辺の来訪を告げると、坂田は秘書に、山之辺を副社長室にいれるように指示をした。

坂田副社長と役員として緊張関係にある阿部取締役の、直下で働く山之辺は、副社長室に入るのは、これが初めてだった。副社長室を訪問することは、山之辺のサイボウズにも、一切、入力をしていない。

副社長室の坂田が座る後ろの窓からは、246号線を挟んで、青山学院大学が一望できた。坂田は、その窓の前にどっしりとおかれた役員机に座って、資料に目を通していた。

「坂田副社長。山之辺伸弥でございます。

昨日は、銀座花月のほうにお越しいただき、ありがとうございます。私が、昨日は所要で店のほうへは行くことができず、ご挨拶もできずに、失礼を致しました。」

山之辺は、深く頭をさげた。
坂田は、目を細めながら、山之辺に語り掛けた。

「いやいや。ちょうど夕方に銀座に用事があってね。そういえば、君に副業で認めた店が銀座にあると思い出したんだ。それで、探して伺った。

お姉様には、丁重にご挨拶いただき、授業員の方にも、本当によくしてもらった。

あれだけの、店と、あれだけの料理と接客ができる店は、そう多くないね。素晴らしい。君の経営者としての手腕は、素晴らしいということに、改めてきづかされたよ。
是非君には、今後もバリューフェスでも、あの経営手腕を発揮してほしいね。」

山之辺は、笑顔を作って謝意を述べた。坂田も、山之辺も、にこやかに、そして穏やかに話をするも、二人とも目が一切笑っていない。

「また、雪子が大変ご馳走になってしまったようで、申し訳ございませんでした。」

坂田は、山之辺がその話題に入ると、はじめて目の尻が微妙に下がった。

「雪子さん、可愛い子だね。それに、なかなか呑ませ上手で、すっかり私もいい気持になって、彼女に酒をのまされて盛り上がっちゃったよ。年甲斐もなく、面目ない。」

山之辺は、坂田の微妙に下がった目尻を見逃さなかった。

「雪子も、坂田副社長のことが、とても気になっているようです。本人は、彼氏の男もいないようです。是非、可愛がってやってください。」

坂田は、大げさに手を振って、柄にもなく、狼狽した。

「いやいや。昨日、店を出る別れ際に、今度店の外で食事でもと、調子にのって約束をしてしまったんだけど。君の店の大切な戦力だ。申し訳ない。君から、呑みすぎたあとの冗談だと、断っておいてくれたまえ。」

山之辺は、大きく首を振った。

「坂田副社長、まったくお気になさらないでください。

バリューフェスでのことと、私の店のことは、まったく無関係ですし、それに、雪子も大人の女です。店でも、本人のプライバシーには一切立ち入りませんから。
本人も楽しみにしているようですから、是非、お忙しいとは思いますが、今度、お時間が許すときに、お食事にでも連れて行ってやってください。」

そろそろ、バリューフェスの社員たちが出勤し、副社長室の外では、坂田副社長との打ち合わせを待つ、他の部署の管理職が、坂田のスケジュールに飛び入りした、山之辺が部屋から出くるのを待っているようだった。

山之辺が、話を切り上げて、退室しようとしたとき、坂田は言った。
「そうそう。海外進出部門では、今、次のプロジェクトをしかけているんだろ。

阿部取締役は、なかなか俺に情報をいれてくれない。今度、君に時間がとれるとき、銀座花月ででも、次のプロジェクトの腹案を、俺にも話をきかせてくれ。

どうせ、次のビジネスプランも、全部、君が描いているんだろ。」

山之辺は、微笑んだ。坂田が、突然銀座花月に立ち寄ったのは、これが目的だろう。

「承知しました。今、私は、過去に在籍した積山ホーム時代に、積山ホームが属する系列の主幹事銀行 三洋銀行のシンクタンク 三洋総合研究所で、積山ホーム担当の経営コンサルタントをされていた方と、連絡をとっています。お名前は、松木 陽介さんという方です。

彼は、積山ホームの営業システムを抜本改善して、積山ホームの販売力を飛躍的に強化された方です。私は、松木さんのご指導を受け、松木さんが確立した営業システムによって、積山ホームのトップセールスになることができたのです。

松木さんは、三洋銀行で積山ホーム案件以外でも、猛烈な実績をあげられました。そして、その功績が認められ、三洋銀行が年間3名に認める社費留学制度で、ハーバードビジネススクールに留学されました。そして、バーバードのMBAを取得されました。そして、三洋に帰られることなく、今はニューヨ-クのWwWコンサルタンツのシニアコンサルタントに着任をされています。

世界の金融と経営に精通された、ウオール街の、有名なコンサルタントになられています。

その方が、私に、中東のオイルビジネスに関するビジネス案件を繋いでいただいております。この案件を、形にしたいと、今、私は考えております。

カタチが見えて参りましたら、また、改めて副社長にも、詳しくお話をさせていただきます。」

山之辺は、そこまで話して、副社長室を後にした。山之辺が部屋を出るのと入れ替わりに、数名の部長たちが、ファイルの束を抱えて、副社長室に入っていった。

山之辺は、そのまま自分の机に戻らず、受付嬢が座るバリューフェスのエントランスから、エレベーターで1階まで降りた。コンビニに買い物をいくようなふりをしながら、建物の外に出ると、そこでスマホを取り出した。

「もしもし。雪子です。山之辺さん、おはようちゃん!
隣で、奈美ちゃん、裸で寝てるよん。山之辺さん、あたしのこと羨ましいでしょ。」

雪子は、まだ奈美と二人で裸身で寝ているベットの中で、電話の相手が山之辺だと確認して、受話したのだった。

「というか、この時間までゆっくり寝床にいられるということが羨ましいよ。
雪子ちゃん、昨日は、坂田さんの接客、ありがとう。

今、お礼の挨拶に伺ったが、どうやら君を相当気にいってる様子だ。食事の約束をしたようだけど、奈美ちゃんに、やきもちやかれないかい?」

雪子は、鼻でふふんと笑った。

「奈美ちゃんだって、私だって、男を喰らって生きている女だよ。奈美ちゃんも、そんなことは百も承知さ。

でもね。坂田さん、結構まじで私の好み。背が高くて、筋肉質で、がっしりしている。それに、おカネがあって、仕事が猛烈にできる香りがする。

私、ああいう男、大好物なの。」

山之辺は、その辛辣な表現に、スマホを片手に、肩をすくめた。

「そうか。是非、坂田さん、仲良くしてくれ。別に、バリューフェスのことを聞き出したりする必要はないよ。むこうも、守秘義務がある役員だから。ただ、坂田さんのほうから、君が聞かないのに仕事の話をしてきたら、それは、坂田さんが、俺に伝えろという、合図だと思って、内容を俺に教えてくれ。

きっと、お食事だけしても、たっぷりお小遣いをくれるだろうから、せいぜい、甘えるといいよ。」

雪子は、奈美に背中を向けるため、寝返りをうちながら、つづけた。

「オッケー。了解。

そうそう、昨日、坂田さんが、話していた話題のことなんだけどね。

坂田さん、趣味が競馬らしいよ。それも、そんじょそこいらのギャンブル狂いの親父とは、わけが違うの。

馬主なんだって。山之辺さん、知ってた?

また、一頭しか持っていないそうよ。でも、東京競馬場では、馬主しか入れない来賓室で観戦するって。

私、誘われちゃったの、一緒に来賓室で観戦しようって。お食事は、そのあとね。もちろん、流れ次第で私がお食事のあと、坂田さんに、馬乗りになっちゃうけど。

もちろん、ばっちり、着物で決めていくわよ。

でも、ダイジョブ。私、裸になっても、着物、一人で着つけられるから。」

山之辺は、はいはい、と相槌をうって、スマホを切った。そして、バリューフェスのオフィスに戻るため、エレベーターに乗った。

山之辺には、君から断っておいてくれなどと言いながら、雪子を、東京競馬場の来賓室に誘っているわけか。

「馬主か。それは、なかなか凝った余裕のある趣味だな。」

一部上場企業の副社長の激務から離れ、自分の馬を、眼を細めてみる、坂田の姿を想像した。

そのころ、坂田も、朝の部長たちの報告を聴き終えて、副社長室の窓辺で、外を睨んで、腕を組んでいた。

「世界の金融を股にかける、WwWコンサルタンツの腕利きコンサルが持ってきた、中東のオイルビジネスか。面白い。山之辺のお手並み、拝見といくか。」

この案件をもし、山之辺が纏めたとする。これは、韓国のクラウドビジネスなどとは、わけが違う、規模のビジネスだろう。そうなれば、大井川秀樹社長と、阿部取締役は、大井川社長の一人息子で、今、韓国のGLU+のビジネスの責任者として韓国のソウルに駐在する大井川茂を、そのビジネスに移そうとするに違いない。韓国GLU+の時もそうだったが、ビジネスモデルをすべて山之辺に書かせ、その果実だけを、大井川茂に阿部は喰わせたのだ。しかし、大井川茂は、韓国に赴任したあとも、何ら韓国で、目覚ましいビジネスを作った形跡はなかった。実際、韓国クラウドビジネスは、山之辺が描いたビジネスモデルを商品として、坂田の率いる日本のバリューフェスの営業部隊が、企業の取引先を集めたことで、大きくなったのである。大井川茂は、ソウルで、単にその受け皿をやったに過ぎない。大井川茂は、おそらく、韓国語も話せず、英語も使えない中で、単にGLU+に開設した支店で、日本人の部下を使って、業務をしているにすぎないのだ。

大井川秀樹社長も、阿部洋次取締役も、このことを、薄々気がかりにしているに違いない。そうなると、目立たないように、次のビジネスで、新規の国に移動させ、あたかも、海外事業経験が豊富なように、大井川茂を演出する違いない。

しかし、今回、前回と同じく、なんの業績もない大井川に、果実を食わせれば、流石に山之辺の感情は複雑だろう。山之辺の部下は、大井川茂だけではない。何ら、ビジネスの業績をあげていない社員が、その業績の果実だけを喰うということは、実力主義会社である、バリューフェスとして、適切な人事とはいえない。

阿部が何を画策しようが、実績もなく、実力もさしたることはない、親の七光りだけで、バリューフェス内でちやほやされている大井川茂など、坂田にとって問題ではない。茂など、バリューフェスで叩き上げ、外部の安定株主からも信頼の厚い、坂田将の敵ではないのだ。そんなもんを担ぎださなければ、坂田に対抗できないという事自体、今の阿部は、力と人望を失っている、と坂田は踏んでいた。

ポイントは、山之辺伸弥課長だ。これを、坂田の影響力の下に入れれば、海外進出コンサルティングセクションは、事実上、坂田のコントロール下に入る。

坂田は、既に、そう見抜いていた。

坂田と、山之辺。二人はそれぞれ、銀座花月という、山之辺の副業ビジネスを通して、情報の一端を開示した。その薄い接触を、勿論、まだ阿部洋次取締役が、気づくはずはない。目に見えない細い糸のような、秘密同盟の端緒が、坂田と山之辺の間に、繋がったことを、まだ阿部が知る由もなかった。

続く

「副業飲食編」第6話で完結いたしました。
次回より、「ニューヨーク ウオール街 ビジネス始動編」がスタートいたします。
どうぞお楽しみに。

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