製造業を超えるアメリカの巨大産業 エンターテイメント
アメリカのエンターテイメント産業は、巨大産業界を構成し、その構成企業は実に多彩です。
西海岸のビバリーヒルズを中心とする華麗な世界、ゲーム産業や最新の技術を繰り出すシリンコンバレーやヒューストンのIT企業世界、ディズニーを盟主とするコンテンツ産業、そして、ニューヨークのブロードウエイを中心としたアメリカの伝統的な演劇産業。
これらの産業を構成する企業が、世界70億人の消費者が娯楽に落とす巨額なマネーをターゲットにして、群雄割拠の戦国乱世を繰り広げているのが、アメリカのエンターテイメント業界です。
世界でダントツのトップを走るアメリカのエンターテイメント産業は、アメリカの製造業をはるかに上回る産業規模を持っている「強大な象」なのです。
ブロードウエイでの事業再生
僕は、1997から2007年までの約10年間、アメリカ ニューヨークのウオール街で、金融系経営コンサルティングファームと契約し、仕事をしていました。
そのため、このエンターテイメント業界にも、関わってきました。
この巨大な市場に、僕が、最初に関わったのは、アメリカのエンターテイメ業界で、最も古典的な色彩の強い、ブロードウエイの伝統的な、ある企業の再建という案件でした。
世界を市場とする、エンターテイメント業界の中で、ブロードウエイだけは、ニューヨークという街に市場を限定した「エリアマーケティング」を展開してきました。また、コンテンツ産業や、CGやVRを駆使したIT産業のような事業と異なり、「リアル」な観客をベースにした産業でした。
2000年代はじめのITバブルが吹きあれる中で、ブロードウエイの企業群は、技術やコンテンツ化に焦り、経営戦略のベクトルを見失い、過度な投資と、その回収不能に陥り、苦境に立っていたのです。
この問題は、経営戦略論でいうところの、ポジショニングの問題です。
企業にとって、何も、グローバル展開や、最新の技術導入だけが優れた戦略ではありません。エリアを絞ったエリアマーケティングを徹底し、そのエリアに対して、ファン層を厚くし、リピーターを増やして、市場を創っていくことが、ブロードウエイの経営戦略としては適していると僕は分析しました。
ニューヨ-クから世界に出て行って、世界のどこでも楽しめるという価値を創出する企業もあれば、ニューヨークに来なければ観ることができない価値というものを掘り下げて創出し、世界からブロードウエイにインバウンドを呼び込む企業があってもよいわけです。
ブロードウエイは、最新の舞台技術や、グローバル化に向かうべきではなく、世界からニューヨークのブロードウエイのスターを目指してくるヒトを選別して受け入れて演劇技術を磨き、世界一の舞台を作りあげて、世界やアメリカ各地から、その舞台を観に来るインバウンドの顧客で、「常時満席」の状態を作りあげることが、再生への道であると、僕は分析しました。
このような観点から、僕は、この企業の再生の経営戦略ベクトルを固定し、数年で、この企業の黒字化を実現し、その後、負債を大きく減らして資産を蓄え、優良な企業に生まれ変わらせました。
この経験が、僕が、エンターテイメント産業との出会いとなりました。
新興国の追随を許さない、アメリカの独走産業
ブロードウエイの企業の再生をした経験の中で、僕が最も感動したのは、世界からブロードウエイを目指してアメリカにやってくる若者たちのエネルギーです。
僕は、2007年に日本に本拠を移し、その後、日本のエンターテイメント業界の様々な方々とお会いしましたが、そこで感じたことは、アメリカに比べて、日本の芸能界は、本当に「村社会だな」ということです。
日本のエンターエイメント業界には、本当に外国人がすくなく、またそれを受け入れる素地も志向もありません。
それに比べると、アメリカは本当に世界に向けて解放されていまして、世界中から才能ある若者がアメリカを目指してやってきて、そして、アメリカで競争しています。もちろん、アメリカのエンターテイメントの世界は、凄まじい弱肉強食の世界であって、そこで勝ち残ることは、容易なことではありません。
たくさんの若者が夢を抱いてニューヨークに来て、そして、夢破れていきます。
それでも、その競争は、あくまでも平等な競争であって、実力があれば、勝ち残ることが可能な社会になっています。
日本のエンターテイメント産業の未来像は、アメリカと並ぶこと
2024年の日本では、芸能界におけるセクハラ問題が吹きあれ、芸能界を大きな激震が襲っています。このような問題を乗り越えたうえで、日本のエンターテイメント業界は、アメリカの後をおって、世界に通用し、世界からアーティストが集まってくるようにならなければならないと僕は思っています。
経済大国の中で、中国やインドのエンターテイメントは、アメリカとは比較にならないほど、未成熟であり、先進国のそれとはまったく比較になりません。
アメリカの後を追って、アメリカと並ぶエンターテイメントの質を追求できるのは、芸能の長い歴史と、自由に表現活動が行え、経済規模の高い、日本をおいて、他にはありません。
その意味で、日本のエンターテイメント業界は、アメリカを意識し、それと並ぶ規模の産業にまで、自らを成長させる必要があるのではないでしょうか?
続く
本稿の著者
松本 尚典
- 米国公認会計士
- 総合旅行業務取扱管理者
日本の大手メガバンクから社費留学で、米国の経営大学院に留学し、MBAを取得。
その後、ニューヨーク ウオール街で、金融系経営コンサルタントとして11年間、活躍する。米国公認会計士。
リーマンショックの前年、2007年に日本に帰国。
その後、自身で投資する企業をグループとして、URVグローバルグループのオーナー最高経営責任者に就任。現在も、世界各国の事業で活躍中。
関連するコンテンツのご案内
「モデル芸能事務所DRISAKUサイト