受験英語は、本当に実用英語に役立たないか?
このコラムをお読みいただいている方の多くは、高校・大学、そして大学院の受験で、英語をたくさん勉強されてきたと思います。
僕自身、高校で東京の小金井市にある中央大学付属高校に入学しましたが、この高校の入試は、当時でも英語の読解量が多く、僕は中学生としては、英語は比較的できるほうだったと思います。
ところが一方、僕の場合、大学は付属校からの無試験推薦で、中央大学法学部にあがり、大学在学中は、自分の学費を稼ぐための仕事や、法律学の勉強に勉強時間の大半を費やしたため、銀行に入行した当時、英語は苦手な科目になっていました。
そんな僕が、銀行組織の中の社費留学制度を目指して、英語のやり直しの勉強・トレーニングを積み、アメリカの大学院に留学するまでになりました。そして、その後、アメリカで金融系経営コンサルタントの仕事をし、12年間アメリカに暮らしました。
留学準備を意識したとき、僕は、自分の英語力が、中学卒業レベルにとどまっていると自覚しました。方法論を確立し、その結果、まず英文法の徹底的なやり直しから、英語の勉強に入りました。
例えば、TOEICのスコアの向上を目指す場合、多くの方は、リスニングとリーディングのトレーニングをその中心に置きます。ただし、それは大学受験で有名大学の入試を突破できた文法力がある方レベルの勉強法だと僕は思っています。
有名難関大学の入試の試験問題は、英語を感覚的に勉強するような、小手先のやり方では通用しません。長文で、難解な構造を持つ英語を、文法的に正確に理論的に解析する能力がなければ、正確な意味をつかめず、速読もできません。
まして、英作文や高度な内容の会話の場合、正しい英語の構築には、確固たる文法力の基礎が必須です。
有名難関高校や大学の受験勉強は、実用的な英語力の運用の基礎として、非常に役立つと思います。
旅行者が英語圏を訪れ、相手がこちらが英語を話せないということを理解している場合に、意味さえ通じればよいというレベルの会話は、単語をつなぎ合わせ、5文型の、第1(SV)・第2(SVC)・第3文型(SVO)の基本形で行われています。
このような幼稚なレベルの会話さえできればよい(何とか通じればよい)というのであれば、確かに英文法などいりません。適当な単語を連発すればよいわけです。文をつなぐのも、等位接続詞を使えばよいというのが簡単なレベルです。
しかし、仕事で英語を使い、またネイティブと友達になる、更に英語で勉強をする、というようなことを考え始めると、状況は全く異なります。
実際、ネイティブの会話は、かなり文が長いのです。
この「長さ」の理由は、5文型の第4(SVOC)・第5文型(SVOO)が用いられ、前置詞の目的語が普通の使用されていることによります。更に、ここに節と節をつなぐための、従位接続詞・関係代名詞・関係副詞が用いられたりしています。そして、不定詞や動名詞・分子構文などの準動詞が使われて、文は更に長くなります。
こうなった文の場合、これを聞き取って意味を正確に理解するためには、単にヒアリング力を鍛えても無理です。
すべての文の構造を論理的に説明できるまでやる、という目標
英語の文法構造を自力で分析することができる力を身に着け、これをリーデングのトレーニングで、たくさんの文章が溢れる実践の中で文法分析の練習を積む段階を通らなければなりません。
例えば、従位接続詞は、その接続詞が従属節の中で果たす役割と、従属節が主節との関係の中で、文全体の中で果たす役割が分離しています。ノンネイティブの場合、この役割を最初は分解して考えなければ、意味をとることができません。この分解を繰り返すうちに、分解をしなくても、従位接続詞の使い方が身に付き、自然に使えるようになるのです。
一定の教養があるネイティブが話す英語は、使用される単語や熟語のボキャブラリーが豊富なだけでなく、文の中に、従位接続詞や準動詞が複雑に組み合わされています。したがって、ノンネイティブが、その正確な意味をとるためには、いったんその文の構造を分析する過程が必要です。その過程をえると、次第に、その文を最初から読んでも、口頭で聞き取っても、即、意味がとれるようになるのです。
ノンネイティブのこの状態が、英語理解のスピードがあがった段階なのです。最初からこの分解の過程を飛ばして、文法構造がわからないまま進むと、ある段階から、英語の意味がとれなくなってしまいます。
これが初歩段階では、英語が得意だったけど、その後、中上級になると英語力が伸びなくなる理由です。
実用英語検定試験(英検)で言いますと、この初歩段階で通用するが2級です。2級の英語は、読解もヒアリングも、語彙力があれば、ある程度意味がとれ、かつ、問題を正解することができます。
しかし、これが、準1級・1級になると、まったく世界が違ってしまいます。使用される語彙が圧倒的に増えるだけでなく、文法構造が組み合わされた、極めて実用的な英語が出題されてきます。
よく「英検は、学校英語だから使えない。」という類のことを言っている人がいますが、これはその人が英検2級までしかとっていないための誤解だと僕は思います。
英検は、準1級と1級に関しては、TOEICよりも、相当に実用的です。TOEICが、ビジネス英語に特定されて出題されているのに対し、準1級と1級は、英米の大学教育で重視されているリベラルアーツの広い分野から出題がされています。
英米社会で、大学を卒業している程度の知的水準にある人とコミュニケーションをする場合、彼らが大学で受けてきたリベラルアーツの水準まで、こちらの知的水準と語学力を伸ばす必要があります。それには、一定以上の水準の文を、文法的に分解して正確に理解する力が、絶対に不可欠です。
英検でいえば、2級はとれるけど、準1級や1級には歯が立たない、という人が非常に多いのですが、それは語彙力の不足や、トレーニング不足だけでなく、文法力の欠如にあると、僕は思っています。
英会話や多読に走ると、ある段階で実力が伸びなくなり、観光客レベルの英語・知的水準が低い小中高校生英語で止まってしまうのです。
これが、英語が「まじで使える」ようにならない、第一の理由です。
ある段階で、「すべての文の構造を論理的に説明できるまでやる」という目標を持たないと、上級者の英語力には達しないのです。
TOEICのトレーニングをいくら積んでも、ある段階でスコアが止まるのは、この目標をクリアしてない可能性が高いのです。
英文法は、一生で一回の徹底強化で「終わりがある」分野
「すべての文の構造を論理的に説明できるまでやる」というのは、非常に大変のように思いますが、他の英語のトレーニングから比較すると、実はそれほど困難なことではありません。
それは一生で1回徹底的にやってしまうと、「終わりがある」という分野なのです。
語学の習得の非常にきついところは、「終わりがない」ことにあります。
よく、「日本人は、中高6年間英語をやっているのに、英語ができない」ということをいう人がいます。
しかし、これは、明らかに英語を舐めた話です。語学の習得は、日本語も含め終わりがありません。
僕は55歳ですので、日本語を55年間、日本語ネイティブとして使っていますが、その日本語力は、今でも向上が続いています。英語は、12年間アメリカに留学と仕事で住んで使っていましたが、いまだに継続的に勉強を続けています。
語彙や使いまわし、そしてその運用能力の向上には、終わりがありません。TOEICを900点台をとるとか、英検1級に合格するとか、通訳案内士をとる、というのは終わりでなくて、通過点にすぎません。
一方、文法の勉強は、終わりがあります。文法の勉強は、一定の実力がつけば、一生ものなのです。そのため、文法を覚悟を決めて習得してしまうことを、僕はお勧めします。
ちなみに、「すべての文の構造を論理的に説明できるまでやる」という目標のために書かれた本で、僕が非常に優れていると感じた本をご紹介しておきます。
- 基礎がため 一生モノの英文法 BASIC
- 一生モノの英文法 COMPLETE
澤井康佑著
ベレ出版
澤井先生は、東進ハイスクールの講師でおられ、英語を受験生に指導をされた豊富な経験から、非常に論理的で優れた方法で、英文法を完成させる本書を執筆されています。
難解ではありますが、この2冊で、英語の難解な文を完全に「すべての文の構造を論理的に説明できる」ようになると感じます。
英文法こそ、英語の深さが本当に楽しくなる最大のコツだ
語学の習得は、勉強という要素よりも、トレーニングがその大半を占めるものです。
4技能のトレーニングというのは、スポーツの基礎トレーニングのようなもので、知的な興奮がある作業ではありません。
しかし、その中で文法の習得は、トレーニングではなく知的活動です。そして、英文法の場合、それは非常に論理的な知的活動となります。
「なるほど、英語の文はこういった構造になっていたのか!」
大学を卒業した程度の人が、改めて英文法を再学習すると、その論理的な構造に、英語を再発見するような、喜びを感じられます。
そして、その後の無機質なトレーニングとは別に、英文を分解して、その単語や節ごとの論理的な関係を把握して、正確に意味をとるという活動が入ってきます。
英語の深さを再認識し、英語が楽しくなります。
英文法とは、そのような領域の入り口にある、素敵な分野だと僕は思っています。
本稿の著者
URV Global Mission Singapore PTE.LTD President
松本 尚典
- 通訳案内士
- 米国公認会計士
- 総合旅行業務取扱管理者
大学卒業後、金融系大手シンクタンクで経営コンサルタント職を経験。その後、英検1級をクリアーして、「英語の司法試験」と言われる通訳案内士を英語で取得し、社費留学でハーバードビジネススクール(経営学大学院)に留学し、世界でもっとも権威のあるハーバード大学MBA(経営学修士号)の学位を授与され、米国公認会計士として、ニューヨークの会計系経営コンサルティングファームで金融系コンサルタント業務を経験。
日本国内の大手企業の役員の歴任を経て、URVグローバルグループのホールディングス会社 株式会社URVプランニングサポーターズ(松本尚典が100%株主、代表取締役)を2015年に設立。
同社の100%子会社として、日本企業の海外進出支援事業・海外渡航総合サービス事業・総合商社事業・海外の飲食六次化事業を担う、URV Global Mission Singapore PTE.LTD(本社 シンガポール One Fullerton)を2018年12月に設立。現在、シンガポールを東南アジアの拠点として、日本企業の視察・進出・貿易の支援を行う事業を率いている。