Vol.1 ソウルの顔 明洞や南大門とは違うビジネスの顔を持つ江南を歩く

日本人が大好きな明洞 韓国の風情が味わえる南大門

韓流好きの日本の女性が好きなソウルの街は、明洞(ミョンドン)でしょう。明洞は、韓国ソウルの政治の中心である青瓦台(韓国大統領府)にも近く、また、観光地や繁華街である南大門(ナムデモン)にも近く、ソウル観光のメッカといえます。

明洞には、日本語がメニューに表記されている店も多く(但し、僕らのような、韓国で現地の方とビジネスで一緒に食事をしなれている人間にとっては、日本人向けの店は、驚くほど高く、日本で韓国料理を食べているのと大差ないのですが)、ハングルが読めない日本人にとっては、過ごしやすい街であるといえます。

ところが、いま、韓国ソウルのビジネスの中心地は、この中心地から拡散する傾向にあります。

ソウルが北朝鮮との軍事境界線である38度線から近いということもあり、韓国最大の財閥企業 サムソン電子が、本社を移した水原(スオン)だけでなく、ソウルの中でも、ビジネスの中心機能が、漢江の南、江南(カンナム)に移っています。

江南は、文字通り、漢江の南側のエリア

日本では、韓国最大の美容整形サイト「カンナムオンニ」が、大々的に広告をしており、カンナムという地域名が有名になりました。

「カンナムオンニ」とは、「江南女子」という意味です。つまりは、江南を闊歩する、整形美女のビジネスパーソン女性をイメージさせるブランド名で、江南とは、そのようなイメージを齎す、洗練された現代韓国を象徴するイメージを与えるエリアをあらわす言葉です。

韓国では、整形が非常に普及し、大学を卒業して、厳しい就職競争を勝ち抜くための、エリート女性の必須手段になっているため、江南を闊歩する女性の典型的なイメージは、まさに韓流整形美女のイメージなのでしょう。

ソウルの顔 明洞や南大門とは違うビジネスの顔を持つ江南を歩く
ソウルの顔 明洞や南大門とは違うビジネスの顔を持つ江南を歩く

明洞のように、観光的に韓国のイメージを造っているエリアではなく、東京の丸の内や大手町に近い「都心」のイメージが江南です。

日本人では、ビジネスマンは多いのですが、観光で行く人は少なく、店も、日本語表記のメニューを置く店は、非常に少なくなります。

江南が見せる顔こそ、現代の韓国ソウル

日本人と韓国人は、顔は非常によく似ていますが、その育ち方や考え方は、まったく異なっています。

子どもに対する親の育て方という点で、次のような言葉が、その差を的確に物語っています。

日本人の親は、子どもにヒトに迷惑をかけるな、と教える。
中国人の親は、子どもにヒトに騙されるなと、教える。
韓国人の親は、子どもにヒトに負けるなと、教える。

現在の日本は、受験競争に子供をさらすことを、親は好まない傾向があります。友達と競争するよりも、友達と仲良くし、友達との人間関係を良好にして、友達に迷惑をかけたり、友達から仲間外れにされることをしないということを、子どもに教育するのが、日本の良い親です。

一方、中国は、古代から極めて個人主義的な社会であり、他人を騙してでものし上がることを良しとする、強烈な弱肉強食社会です。したがって、親は、子どもに、友達に騙されるくらいなら、友達を騙してでも、利益を追求しなさいと教えます。

子供を、強烈な弱肉強食社会の中で、他人の踏み台にされずに、生き延びさせる教育をすることができるのが、中国の良い親です。

そして、韓国は、中国よりも圧倒的に狭い国の中で、成功のポストが非常に少ない社会です。そのため、韓国の良い親は、友達に負けずに、友達に勝って、その少ないポストを手に入れなさいと、教えます。

友達と仲良くすることを良い教育と位置付ける日本に対して、友達に勝って、よいポストを手に入れ、その手に入れたポストの世界にいる人たちだけと友達になりなさい、あなたに負けた負け犬は、友達でもなんでもないと教えるのが、現代の韓国の良い親です。

そして、いまの江南は、その勝った人の象徴の街と言えます。

ソウル大学をはじめとする一流校を卒業し、サムソンをはじめとする財閥系企業に就職し、その中で勝ち残って、同じ境遇にいる異性と結婚して、高収入をえるという生き方をしたヒトだけが、成功者とみなされるというのが、現代の韓国社会です。

その成功者の象徴の街が、江南なのです。

韓国でのビジネスをするには、その凄まじい格差を無視できない

僕たちが、観光や視察を超えて、韓国企業との間でビジネスを進めるとき、上記のような韓国社会に厳然と存在する、凄まじい格差を無視することは不可能です。

そして、韓国人たちからも、「こいつは、勝ち組の日本人か?」という目で試されることから逃れられません。相手が、低学歴の大学を卒業していたり、企業の中でのポストが低いということがわかると、露骨に、こちらを外して、上と直接に交渉をはじめるのが、韓国のエリートたちのビジネススタイルです。

韓国経済は、そのほとんどのシェアを財閥系企業が握り、その取引企業や独立企業である中小企業も、その経営者の多くは、財閥系企業の事業家か、あるいは、名門大学を卒業して一旦財閥系企業にはいり、そこから独立してベンチャー企業を起業した事業家です。

旧日本の植民地時代を通して日本帝国主義に協力した、かつての富裕層は、ことごとく戦後にチカラを失ったため、日本のように、旧家の跡取りで成功されているような方は、ほとんどいません。

今の韓国の富裕層は、ほぼ例外なく太平洋戦争の日本敗戦後に、実力で富裕層にのし上がった方と、その子女で彼らに猛烈な教育投資を受けて、学力で勝ちぬき、名門大学に進学した成功者の二世です。

学歴が、人生の経済力を決める最大の要因となる韓国社会は、学歴がモノを言う社会であり、したがって、ビジネスにおいても、相手はこちらの学歴やブランドを意識して取引を決めてきます。

そして、韓国の企業では、どんな規模の企業でも、現場にはまったく決定権がありません。ほとんどの意思決定が、トップダウンで決められています。

したがって、トップ同士で協議をすれば、相手の意思決定は一発で決まりますが、トップと繋がらなければ、まったく決まりません。

一方で、こちら側にも、非常に速い意思決定を求めてくるのが、韓国企業です。

そんな、高学歴と、スピードと、インテリジェンスの象徴のような街。
それが、江南なのです。

続く

本稿の著者

松本 尚典
URVグローバルグループ 最高経営責任者兼CEO
株式会社URVグローバルミッション 代表取締役
URV Global Mission Singapore PTE.LTD President

松本 尚典

  • 米国公認会計士
  • 総合旅行業務取扱管理者

日本の大手メガバンクから社費留学で、米国の大学院に留学し、MBAを取得。
その後、ニューヨーク ウォール街で、金融系経営コンサルタントとして11年間、活躍する。米国公認会計士。

リーマンショックの前年、2007年に日本に本拠を移す。2007年から2017年まで、日本の大企業3社の役員を歴任。この時代に、自社と韓国の財閥系企業との事業アライアンス提携を構築する。
この本業の事業で培った韓国経済界との太いパイプを活用し、松本は、自身の副業でも、韓国企業との事業提携を幾つも創り上げ、大きな収益モデルに育てる。

松本が、現在、投資する企業グループ URVグローバルグループの前身の企業で、松本が副業として共同出資をした株式会社フリーティブパートナーズ(現在は、事業を株式会社URVプランニングサポーターズに譲渡)で、2011年3月にソウルオフィスを開設。このソウルオフィスでの事業は、現在、松本が投資する企業で構成するURVグローバルグループに引き継がれている。

現在も、ソウルに韓国人の部下とパートナーをかかえ、事業を展開する。

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