「香港の銀行口座を開きたい」というご要望は、とても多い
「香港の銀行に口座を開きたいのですが・・・」
サイトから、あるいはご紹介で。
アメリカのウォール街の、金融系コンサルティングファームで10年以上仕事をしていた僕のところに、このような相談はとても多く寄せられます。
おそらく、その多くは、税金を逃れたいという内情があり、お金を香港の銀行に預ければよいのではないか、というような発想からのお話だと推測します。
残念ながら、これができたのは昔の話。
今は、金融機関の国際ネットワークが確実に動いておりますので、日本の国税局の調査から、香港の銀行に預けたお金が逃げおおせることは、まずできません。
一方で、破産を目前にしたヒトが、海外の銀行に隠し資金を持ち、その資金を破産の免責を受けるまでは破産管財人から隠しおおせて、その後の再起の資金にする、というストーリーなら、香港の銀行口座は有用かもしれません。ただ、そこまでの資金があり、かつ、戦略的に行動する人が、破産をする羽目に陥るということは、まず、現実問題としてありえませんので、これは、あくまでも「小説の中の題材」という、フィクションのレベルのお話になります。
一方、過去に、現実的に、「確かにそれはありだね」という、香港の銀行口座の利用法を編み出した方にお会いしたことがありました。
奥さんや子供に内緒で、若い女の子に子供を産ませた、ある資産家の男性がおられました。ご自身がお亡くなりになった後で、その女の子と子供が、相続問題で名乗り出て、ご家族との間で、大きな紛争が起き、御自身の生前の偉業を、まっ黒に塗りつぶすことを避けたいということで、日本法の外である香港の口座に、女の子と隠し子さんの名義の口座をつくり、そこに相当な財産をいれて、本人たちに、相続のかわりに、その財産で納得させて、「争族」を避けたという使い方です。
日本の銀行口座でこれを行ってしまうと、その財産は、贈与税の対象とされてしまい、莫大な税金を持っていかれてしまいますので、これを避ける方法として、香港の口座を使ったわけです。
日本の自分の銀行口座から、香港の銀行の自分の銀行口座へ対象の財産を現金で送金し、そのうえで、香港の銀行の中で、自分の口座から、贈与先の口座に振替を行われたのです。
今、日本から海外に送金をする、その仕向銀行と被仕向銀行の間には、アメリカにあるコルレス銀行が入り、安全保障の観点から、その資金の動きは、国税庁をはじめとする金融官庁によって完全に監視されています。一方、中国の権力下にある香港の銀行の中の資金移動には、中国の監視下におかれますが、日本の行政機関の目は届きません。日本の行政機関からは、贈与のための資金移動かどうかは、まったくわからないため、日本の税を回避して贈与ができるという、グローバルな国家権力のはざまを突く手法です。
目的は様々ですが、とにかく、香港の銀行口座というのは、富裕層の方にとって、今なお魅力があるものなのでしょう。
口座開設に必要な最低預金高の存在
しかしながら、このように、世界の富裕層に人気のある香港の銀行口座は、マネーロンダリング(犯罪で獲得した資金の洗浄)などに利用されやすいため、銀行側も、相当に用心をしています。
従って、日本の銀行の普通預金口座のように、日本に住民票があれば、誰でも開けるようなものではありません。
様々な要件が要求され、その要件が、サイトなどに明記されているものではありませんから、その要件をクリアするのは容易ではありません。
例えば、そのような要件の一つに、最低預金金額の条件というものがあります。
これは、香港に限らず、世界の銀行に多いのですが、日本の銀行のように、100円で作れるわけでははく、相当に纏まった資金をいれなければ、口座自体が開設できません。
最低預金高より少ないと相手にされず、多いと出所を疑われる
では、おカネさえあれば、口座が開設できるかといえば、そんなこともないのです。
例えば、ある香港の有力な銀行のプレミアム口座は、大体200万香港ドル(日本円でおよそ3,500万円)程度の最低預金が要求されています。
従って、まずは、3,500万円程度のお金を持って行かないと、相手にもしてくれません。
ところが、では、日本人が3,500万円を、香港の銀行に持って行って、おカネを持ってきたから、プレミアム口座を作ってください、とお願いすると、そのおカネの出所が怪しいと言われ、結局いくら交渉をしても、口座を開いてくれないのです。
香港の金融機関のプレミアム口座の開設には、有力者の紹介が必須!
では、どうやって、日本人は香港の銀行口座を開くのかというと、それは、非常に香港らしい話になるのですが、香港の経済界の有力者で、その銀行に大きな資金を預金する方の紹介を受けるのです。
僕は、香港にURVグローバルグループのホールディングス会社である、株式会社URVプランニングサポータ-ズの香港支店を持っています。このように、香港を基礎に、香港と中国の深圳でのビジネスを展開しているのですが、このようなことを行うためには、香港では、有力な銀行口座の保有が絶対条件となり、また、銀行口座に限らず、様々な場面で、有力者のご紹介が必要になります。香港では、この有力者とのコネクションが絶対に不可欠なのです。
香港だけではなく、中国でのビジネスでは、ビジネスモデル以上にコネが絶対に不可欠なのです。そして、銀行口座開設にも、コネが必要です。
先の3,500万円の資金を持参しての口座開設も、有力者に銀行の幹部に繋いでいただくことで、銀行側の態度が180度かわります。銀行の奥にある分厚い高級な絨毯が敷き詰められた特別室に通され、スタイル抜群の美しいVIP専用の女性銀行員が、丁重に口座を開設してくれる、という待遇に変わります。
これが、香港というところなのです。
まさに、日本の京都をはるかに凌ぐ、「一見さんお断り」が香港のビジネスです。
香港の経済界を今でも仕切る「三合会」の威力
さて、香港の経済界の有力者、というお話をすると、必ず、ここに書いておかなければならないのが、香港の経済界に君臨する、三合会(以下、欧米流の呼称、「トライアッド」と称します。)の存在です。
トライアッドは、一般には、国際犯罪団体 香港マフィアといわれています。
しかし、それは、日本の暴力団のような反社会的勢力のように、世の中から排除される団体ではありません。経済界に重要な位置を占め、中国共産党も、香港を支配するにあたり、トライアッドを「愛国者の集まり」として、これを保護利用している有力組織です。
香港の歴史は、シンガポールの歴史とともに、スタート段階から黒い部分が多々あります。
それは、香港も、シンガポールもともに、大英帝国が、インドで産出したアヘンを、中国に売り込む基地として開かれた、という歴史的事情があるからです。
いわば、香港という都市は、イギリスが中国の清にアヘンという麻薬を売りつけて、その経済的繁栄の犠牲に清朝を下敷きにするための、手下の都市としてスタートしたのです。
そして、これに反発した清が、イギリスとアヘン戦争に入り、大敗した代償として、イギリスが清からとりあげたのが、香港でした。
今、日本人は、イギリス下の香港を懐かしみ、中国化される香港が悪のように言いますが、少なくとも、歴史的には、イギリスが軍事力にまかせて、暴力的に中国からとりあげたのが、香港のイギリス支配です。ですから、中国にとっては、これを元の中国の支配に戻すことは、極めて当然の目的ということになります。
トライアッドは、香港のこの暗黒史時代、大英帝国の手先となって、麻薬アヘンを中国に売り込み、中国を破滅に追い込もうとした団体として香港で発展しました。
そのアヘン貿易で得た莫大な資金力を構成員に齎し、英国領となった香港で、今度は、イギリス本国との厚いパイプの中で金融を掌握し、アジア最大の金融センター香港の中で、莫大な富を築いてきた政商の集まりなのです。
倫理的に、ビジネスのやり方にも非常にやかましく、常に成功者の足を引っ張る大衆庶民志向の日本と異なり、香港は、手段を択ばずに勝ったものだけが、成功を謳歌できるという、中国らしいエリアでもあります。
そのなかで、トライアッドのメンバーは、犯罪集団と呼ばれながらも、暗然とした力を維持してきたのです。
そのため、先にあげたような、香港の有力者と繋がるとすると、ほぼ相手は、トライアッドに関わっているヒトだと思ったほうがよいのです。
中国と共存を始め、したたかに力を伸ばし続けるトライアッドは、今後も香港の最有力な闇経済組織である続けるか?
2020年代の今。
かつての世界に君臨した大国イギリスは、その植民地であったインドよりもGDPで下位に立たされるまでに、凋落しました。中国の経済力には、遥かに及びません。
この情勢の中で、香港におけるイギリス資本のチカラはどんどん弱まり、かわって、中国資本のチカラが大きく伸びていました。
トライアッドは、香港で庶民が主張する民主化を尻目に、かつてアヘンで痛めつけた中国に、したたかに接近し、今では、中国派の経済人の団体として、中国共産党の支配を受け入れる勢力になっています。
そして、先にあげた、香港経済の「有力者」は、ほぼトライアッドの構成員となっています。日本における経団連のような、財界を構成する組織になっています。
今後、中国共産党の支配が強化され、中国流資本主義都市に変貌する香港で、トライアッドは、有力な影の組織として存続し、力を発揮し続けるだろうと、僕は思っています。
香港で、経済活動をする僕のような外国資本にとって、トライアッドのメンバーとのコネクションは、非常に重要な位置を占め続けると、僕は考えています。