インドという国は、東洋でもなく、西洋でもありません、と僕はよく知人に語ります。
日本人で、インドの製造業のオーナー株主でもあるという、数少ない変わった事業家でもある僕は、インドという国を、事業の対象として知れば知るほど、その成長性とカオスの奥の深さに、魅了されていきます。
インドは、地理的には、南アジアというエリアに属していますが、東アジア(日本・中国・韓国などを指します)や、東南アジア(概ね、今のASEAN加盟国を示します)が、「アジアらしい」国であるのに反して、インドは、アジアという特徴の一部しか、保有していないように僕は感じます。現在のトルコのイスタンブールが、西洋と東洋を分けるメルクマールだと言われますが、その東に属するはずのインドは、決して、アジア的ではないのです。さりとて、ヨーロッパでもなく、中東でもありません。
その意味で、僕は、インドを「南アジア」と表現するよりも、「インド文化圏」として、バングラディッシュや、ネパール、スリランカと一括して把握したほうがよいと思っています。
アジアとは違う、インドという独自の文化圏という意味です。
かつて、世界侵略を目論んだ、マケドニアのアレキサンダー大王の大軍は、今の南ヨーロッパから中東を支配しながらも、インドに侵入することができませんでした。ヨーロッパ文明のアジアへの流入は、インドでくいとめられ、そのために、インドで発生したヒンズーやブッディズム(仏教)という独自の哲学的宗教が、東南アジアや、中国、そして、終点の日本に伝播しました。
広大で強い軍事力を持った古代インドは、西洋からの軍事的流入から東洋を守った救世主でもあります。もし、古代のインドという大国がなければ、我々、日本人の目も、今頃は、青かったかもしれません。
そして、中国の玄奘がインド ガンダーラへの留学を果たし、古代サンスクリッド語の仏教の経典を中国に持ち帰って、中国に仏教を持ち込み、この翻訳(それが大般若経の経典であり、その哲学の神髄が、今なお、日本人にも写経で使われる般若心経です)が、日本にも中国語翻訳バージョンで、伝わりました。
一方、このような歴史の中における優れたインドを念頭において、今のインドに行くと、そのギャップに驚愕します。
過密な人口。
路にヒトと牛が並歩し、道には牛糞が点在し、そこにおびただしいハエがたかって、日頃、魚を常食にする日本人は、そのハエの格好の餌食になります。
この喧騒のインドで、どうして、あの深遠で抽象的なサンスクリッド哲学が生まれたのか、僕は、そのギャップに苦しみます。
しかし、他方、インドの抽象論や哲学的な思考を好む傾向は、現代に、そのITのチカラによって再生されているようにも感じます。
URVグローバルグループがオフィスを置くバンガロールは、世界有数のITの中心都市でもあります。
この「特集 インドという成長エリア」では、個人の事業と投資のために、インドに頻繁に訪れている僕が執筆する、インドのカオスと、歴史に裏付けられた知性と、そして、絶対に避けて通れない未来の可能性について、発信するコンテンツの特集記事です。
どうぞ、お楽しみに。
インド人が食べるカレーは、ハエを防止する虫よけだった!
僕たち日本人は、自分達が食べているカレーを、インドの料理だと漠然と考えています。
そんな僕たちが、インドに行ってカレーを食べると、それは、もう日本のそれとは、かけ離れた食べ物で、カルチャーショックを受けます。ちなみに、日本で、南アジアの方が経営する「インドカレーを、ナンで食べさせる料理」は、インド料理ではなく、ネパール地方の料理です。
よく、「お釈迦様は、インドの王族生まれの人」と言いますが、釈迦と日本で呼ばれる、ゴータマ・シッダールタが生まれたルンビニも、インドではなく、ネパールです。つまり、日本で食べるマハラジャのインド料理は、インドのマハラジャが食べていた料理ではなく、ネパールの、お釈迦様が生まれた地方の王族が食べていた料理です。…
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今でもインドに残る強烈なカースト制度 ~不可触民 ダリットのスラムへ潜入を試みた~
「カーストなんて、今はもう、インドではなくなっている」
「IT業界や、エンタメ業界では、カーストなんて、もう無視されている。」
こんな甘っちょろい考えで、インドビジネスに臨むと、大きなしっぺ返しを食らいます。
結論から言えば、インド社会で紀元前1,000年あたりに成立し、従って3,000年ほど、インド社会の構成の基礎をなしてきたカースト制度は、インドでは全くなくなっていないと考えて、間違いはありません。
大英帝国支配においても、その後の独立後も、カースト制度はインド社会の根幹に位置しており、インド社会にかかわりを持つすべての人が、そのコンテクストを知らずして、そこに関われるものではありません。
僕がインドに投資し、野菜第一工場を、インド南部のタルミナードゥ州のチェンナイに創業した初期の話から、入りましょう。…
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