インド人が食べるカレーは、ハエを防止する虫よけだった!

日本人が食べているカレーは、インドカレーではない!

僕たち日本人は、自分達が食べているカレーを、インドの料理だと漠然と考えています。

そんな僕たちが、インドに行ってカレーを食べると、それは、もう日本のそれとは、かけ離れた食べ物で、カルチャーショックを受けます。ちなみに、日本で、南アジアの方が経営する「インドカレーを、ナンで食べさせる料理」は、インド料理ではなく、ネパール地方の料理です。

よく、「お釈迦様は、インドの王族生まれの人」と言いますが、釈迦と日本で呼ばれる、ゴータマ・シッダールタが生まれたルンビニも、インドではなく、ネパールです。つまり、日本で食べるマハラジャのインド料理は、インドのマハラジャが食べていた料理ではなく、ネパールの、お釈迦様が生まれた地方の王族が食べていた料理です。

ちなみに、日本人が食べているカレーは、インドから、直接、日本に入って来た食文化ではありません。インドを植民地化したイギリスの海軍経由で、日本に齎された、「英国の食文化」です。

明治維新の後、国家の主権を中央集権化し、富国強兵の合言葉のもと、欧米列強に追いつこうとしていた大日本帝国は、ヨーロッパのうち、王政の大英帝国を模範として、国家を構築します。現在の日本国憲法も採用する国家システムである、議会の二院制と、議会と政府の関係を規定する議院内閣制は、イギリス民主主義の制度を導入したシステムです。

そして、1902年、日英同盟が成立しました。

さて、この日英同盟に基づき、大日本帝国海軍は、英国の海軍の様式を、様々な点で真似ました。そんな中、このイギリス海軍の船の中の食事で食べられていたのが、カレーです。このカレーは、インドのカレーを基礎に、欧米料理的な工夫をこらし、ドロドロした、今の日本のカレーに近いものでした。

この英国海軍のカレーを真似て、これに、日本人らしく、ライスとあわせて食べるように改良したのが、日本の家庭で好まれる、カレーライスです。

そう、つまり、カレーライスというのは、ネパールのカレーをイギリスがヨーロッパ調に改良し、それを、更に、日本人が工夫を凝らして、日本人向けにアレンジした料理です。

日本では、更に、このカレーを、日本独自に、うどんや蕎麦にかけて食べるという、独自の食文化にまで発展させていきます。

インド各地方のカレー

インド各地方のカレー

先のお話した通り、ヒマラヤに近い山岳地方のネパールで食べられているカレーは、比較的、日本で言う、「インドのカレー」に近いのです。

しかし、インドに入り、南に行くにしたがって、日本人の舌には、カレーがあわなくなります。

強烈な香辛料と、激しい辛味。
味もきつくなります。
そして、スープのように、サラサラになります。

僕は、インド タミル・ナードゥ州チェンナイと、マハーラーシュトラ州ムンバイに野菜工場を持つ企業に投資しています。この地方は、インドの南部です。

従って、その地方に行き、向こうの経営陣から、接待や招待を受けて、食事に招かれると、必ず、南部地方のカレーでもてなされます。

しかも、どんなに富裕層でも、食事を右手で、手づかみで行うのが、インドの食事マナー。

インドでは、お箸は勿論、ナイフやフォークも正式な晩餐の場では使用できません。

僕のように、世界中に行きなれていて、どんなエリアの食事でも、食べてしまう人間にとっては、これはこれで、とても、楽しいのですが、多くの日本人は、インドの南部の食事や、そのマナーは、強烈すぎて、対応できません。

特に、インドでは、トイレに紙がなく、かつ、紙をトイレに捨てることができません。トイレの後は、左手を使って、手で拭きます。ちなみに、日本の仏教の中には、インドのこの風習を、いまだに受け継いでいる宗派があります。禅宗である曹洞宗です。曹洞宗の総本山である永平寺に、僕は、若い頃、体験の参禅を数日したことがありますが、永平寺の出家僧は、現在でも、左手で排便後の始末をします。従って、このトイレの後に、左手で始末をするのは、日本でも、行われているのです。

とはいえ、日本人にとどまらず、特に外国人の女性は、この風習をとてつもなく嫌がり、その手で料理をしていることを想像して、インドで外食ができないという方は、とても多いです。

インドでは、左手は不浄の手と言われており、一流の料理店では、料理人は、手を消毒することは勿論、左手で食材には触れません。

とにかく、強烈な香辛料のカレーを手づかみで食べるというカルチャーと味覚のショックに、インドを嫌いになる外国人は、とても多いのです。

インドの方の体臭と、カレーのスメル

そして、特に日本人が、もう一つ、とても苦手なのは、このカレーを食べているインドの人たちは、このカレーの強烈なスメルが、身体から発散されていることです。

弊社の工場の従業員たち(この会社は、僕の投資信条で、インド企業には珍しく、男女を差別なく採用するため、とても女性が多い職場ですが)、僕が、工場に訪問し、彼女たちに歓迎の抱擁を受けたりすると(インドでは、イギリス文化の影響で、女性と男性が、職場でも、社交辞令で抱擁したり、キスを行うことが多いのです)、女性の体臭に、インド人女性が好む強い香水の香り、それに、強烈なカレー臭がまじり、かなり、きついスメルに、僕もたじろぎます。

インドの女性は、職場でも、男性を性的に誘う、きつい香りの香水を好んでつけます。体臭に、その強烈な香りと、カレーのスメルがまじり、アタマがくらくらしてしまうほどの、香りになります。

しかしながら、実は、彼らのスメルの威力というものを、僕は、インドで、頻繁に味わっておりまして、その体験から、何故、インド人が、このような強烈なスメルを発散するカレーを常食にしているのか、という話を、次に、書いて参ります。

インドのカレーは、防虫効果の強い、ハエ防止の薬だ!

日本人や中国人は、世界の中では、体臭が強くありません。それでも、日本人同志では気づかない、日本人特有の体臭というものがあります。

僕もまた、自分では気づかないのですが、よく、付き合った外国人女性から、
「ミスターマツモトは、生魚の香りがする。」
と、言われました。

刺身を含む、生魚を食す、という日本料理の習慣があるため、日本人は、外国人からすると、生魚の香りがする、ということです。

この日本人の生魚臭を、最も、僕が自覚するのは、インドを訪問した時です。

インドは、少し田舎の街にいけば、ヒトと並歩して、牛や犬が歩いており、その動物たちが、道に、糞尿をして歩きます。猛烈な暑さのインドでは、当然、そこに、無数のハエがたかります。

とにかく、インドは、あらゆるところに、ハエが大量に飛んでいます。

このハエが、嗅いだことがない、生魚の香りを放つ僕に、群がってくるのです。

インド人たちには、ほとんど、たかってこないハエが、僕めがけて、大群で、襲い掛かってくるのです。とにかく、これが、インドのどこの都市へ行っても、僕を悩ませます。

古代ペルシャ(現在のイラン)には、スカフィズムという拷問がありました。ヒトに、大量のミルクと蜂蜜を飲ませて、放置し、虫をたからせて苦しめる、人類史上最も残酷と表現される拷問です。

このスカフィズムのように、僕に、ハエなどの虫が、インドでは攻撃をしてくるのです。

どうして、インド人には、それほど群がらないのに、僕にだけ、ハエが群がってくるのかといえば、それは、インド人の食べている、カレーの匂いにその理由があります。

カレーの中の強烈な香辛料は、ハエなどの虫よけの効果があります。インド人が、強烈な香辛料のカレーを食べるのは、虫よけになるからです。

そんなインド人たちは、僕が、無数のハエに悩まされているのを、気の毒がり、
「お前も、はやく、インドに慣れろ。」
とばかりに、僕に、彼らの常食のカレーを振舞ってくれます。

そして、僕が、そんな彼らと同じものを3日間ほど食べ続けていると、不思議なことに、次第に、ハエに見向きもされなくなるのです。

帰国時に困る、体臭

僕のように、世界のいろいろなところに行き、日本に帰国するとき、今度は逆に困るのが、日本で、その行先の体臭を抜くまでの苦労です。

成田空港に到着した僕は、例えば、韓国に数日いれば、キムチとニンニク臭を放ち、インドにいれば、カレー臭を強烈に放っています。

そのまま、匂いに敏感な日本人の恋人に会ったりすると、
「松本さん! 凄~い、匂い!」
と、お風呂に入るまで、近寄ってくれません。

すべての衣類をクリーニングに持っていき、風呂に何度も入って、汗を出して、体臭を消すという作業をしないと、今度は、日本社会に受けいれて貰えないわけです。

どうやら、インドのカレーには、ハエよけの効果だけでなく、日本人女性よけの効果もあるようです(笑)。

続く

本稿の著者

松本 尚典
URVグローバルグループ 最高経営責任者兼CEO

松本 尚典

  • 米国公認会計士
  • 総合旅行業務取扱管理者

日本の大手メガバンクから社費留学で、米国の大学院に留学し、MBAを取得。
その後、ニューヨーク ウオール街で、金融系経営コンサルタントとして11年間、活躍する。米国公認会計士。
リーマンショックの前年、2007年に日本に帰国。
その後、自身で投資する企業をグループとして、URVグローバルグループのオーナー最高経営責任者に就任。現在も、世界各国の事業で活躍中。

インド事業としては、個人事業の形で現地有力企業の野菜工場ビジネスに出資。
インド タミル・ナードゥ州チェンナイに野菜第1工場、マハーラーシュトラ州ムンバイに野菜第2工場を建設。これらの事業を所有する、インド製造業のオーナーでもある。

「特集 インドという成長エリアへ」記事はこちら

関連記事

  1. 特集「インドという成長エリアへ」

  2. 今でもインドに残る強烈なカースト制度 ~不可触民 ダリットのスラムへ潜入を試みた~

  1. Vol.3 日本よりも深刻な「超・少子化」韓国人の、「産んではいけな…

    2024.04.22

  2. 2020年代の今、何故、カンボジアが急成長をはじめたのか?

    2024.03.16

  3. アメリカの巨象 エンターテイメント産業

    2024.02.27

  4. 飲食事業成長軌道編 第4話 イタリア ローマ

    2024.01.26

  5. 第3話 英会話で、本当に英語は上達するのか?

    2024.01.10