九份は、本当に「千と千尋の神隠し」の舞台なのか?

宮崎駿先生の、「千と千尋の神隠し」。

不思議な世界の描写が、台湾の新北市にある九份に、非常に似ているため、

「九份が千と千尋の神隠しのモデルとなった街だ!」
「いや、全く違う」

という、議論が、日本と台湾の間で、巻き起こって久しくなります。

勿論、宮崎駿先生は、これを否定されておられ、千と千尋の神隠しは、現実のどこかの特定の街をモデルにした作品ではない、と、公式に発言されておられます。

ただ、九份に行ってみると、確かに、九份の雰囲気に、千と千尋の神隠しは、よく似ています。特に、九份の夜景をみてみると、宮崎駿先生も、ここを参考に、千と千尋の神隠しの世界を構想したのではないかなあ、と僕は「個人的には」思うわけです。

そんな九份を、僕が、台湾の仕事の合間に、台湾で生まれ育った、URVグローバルグループ 台北オフィスの、陳俐君さんの、案内を受けながら訪れた、その時の紀行を、千と千尋の神隠しの世界を念頭におきながら、書いてみたいというのが、今回のコラムです。

九份(きゅうふん、台湾読みでジョウフン)の場所

九份は、台湾北部の台北から、バスやタクシーで訪問できる距離にある、新北市にあります。

山中の小さな街、という印象の場所です。

台北市内からタクシーで、ハイウエイを使っていき、日帰りができる距離にあるため、多くの観光客の方は、九份に台北から日帰りで観光にでかけます。

お勧めの九份への訪れ方

ただ、率直に言って、九份は、昼間に日帰りをすると、あまりよいところではありません。典型的な観光地で、昼間は土産物屋が立ちならんだ、観光客だらけの場所です。

大陸からの観光客が、圧倒的に日本人よりも多く、そのため、全く情緒がない場所に感じます。

そこで、千と千尋の神隠しの世界に浸りたい方は、ぜひ、台北から日帰りをせず、九份に泊まることを僕は、お勧めします。

九份は、かつて、台湾ゴールドラッシュに沸いた、「西部劇」の街だ!

九份は、かつての金山の街。
そう、ここで、台湾版ゴールドラッシュがあったのです。

中国の清朝の終わりに採掘のピークを迎えた金山で、そのため、台湾全土から、金の採掘を求めて、多くの人が訪れました。

アメリカの西部劇をみるとわかる通り、金を目指してくる人は、一獲千金を狙う、荒くれものも多く、したがって、ここ、九份は、夜には、そんな男たちをもてなす女たちが春を売る店が立ち並んだわけです。

九份が、千と千尋の神隠しの参考になったであろう、その艶めかしい雰囲気を醸し出しているのは、このことが原因です。そして、宮崎駿先生が、公式に、千と千尋の神隠しの舞台ではないと発言されたのも、このような九份の歴史が、子供たちの夢の世界と相いれないためだと、僕は想うのです。

そして、そのために、栄華を極めた時代の九份を味わうのは、やはり、夜なんですね。

細い路地で山路を登り、そこに建つ、かつて古い遊郭だった建物の提灯に灯がともりはじめる夕刻からが、九份の本当の顏。どこか、ノスタルジックで、色っぽい、独特の艶やかな雰囲気の街に、夕方から変貌をしてゆきます。

千と千尋の神隠しでは、湯婆婆の湯屋が、ここのイメージに酷似しています。

夜になると、提灯に火がともります。

九份には、古い民宿的な宿があり、大きなホテルなどは景観を壊すため、ありません。そのため、団体客は、夜には、台北への戻ってしまいます。小さい宿に泊まり、夜になってから、細い路地を散策するのがお勧めです。

尚、台湾名物の夜市が九份にもありますが、夜市を楽しむ目的なら、台北市内の夜市のほうが、賑やかです。ここでは、九份ならでは、の提灯がおりなす独特な雰囲気を楽しんだほうがよいと思います。

そして、もう一つ。
九份には、観光客が殆ど知らない、もう一つの楽しみ方があります。

それは、朝の散歩です。

案外、知られていない、九份の朝の美しさ

台湾は、日本の沖縄の南に位置しています。
そして周囲を海に囲われている、島です。

その暑さと湿度の高さは、半端ではありません。
そのため、夜に外で食べ歩きをする夜市(中国語でイエシーと読みます)が、台湾観光の目玉です。

台湾九份の夜市
台湾九份の夜市

ところが、この夜市歩きも、暑さと湿度との闘いです(笑)。

一方、この台湾の暑さと湿気が嘘のように爽やかになるのが、九份の朝です。

九份は、かなり高い山の上の街なので、南国の爽やかな朝を楽しむことができます。

観光客で混雑する昼と異なり、空気が澄みすみわたり、山から見下ろす景色には、朝もややかかり、幻想的です。

千と千尋の神隠しの世界とは違った、爽やかな南国の高原を味わうことができます。

午前9時ころから、九份の店が開き始め、観光客が訪れはじめますので、ぜひ、九份に泊まったら、夜の遊びをほどほどにして、早朝の九份を楽しむことをお勧めします。

続く

本稿の著者

松本 尚典
URVグローバルグループ 最高経営責任者兼CEO
URV Global Mission Singapore PTE.LTD President

松本 尚典

  • 米国公認会計士
  • 総合旅行業務取扱管理者

米国での金融系コンサルタント業務を経験し、日本国内の大手企業の役員の歴任をえて、URVグローバルグループのホールディングス会社 株式会社URVプランニングサポーターズ(松本尚典が100%株主、代表取締役)を2015年に設立。
同社の100%子会社として、日本企業の海外進出支援事業・海外渡航総合サービス事業・総合商社事業・海外の飲食六次化事業を担う、URV Global Mission Singapore PTE.LTD(本社 シンガポール One Fullerton)を2018年12月に設立。
現在、シンガポールを東南アジアの拠点として、日本企業の視察・進出・貿易の支援を行う事業を率いている。
2022年1月に、サウジアラビアの首都リヤドに、グループの中東・アフリカビジネスの中核拠点として、リヤド中東アフリカ戦略センターを開設。

特集「台湾を知ろう」関連記事

関連記事

  1. マーライオンが水を吐くところは、巨大な溜池だった!?

  2. ベトナムのマクロビジネス環境 ~実質GDP成長率7パーセントの高成長エリア~

  3. 転職編 第5話「構想と陰謀」

  4. 奇跡の富裕国家 シンガポールは、どうやって誕生したか?その1 世界の貿易拠点 シンガポールの誕生

    特集「シンガポール」

  5. カジノだけではなく、売春すら国家産業にする、シンガポールのしたたかなビジネス国家戦略

  6. 特集「経済大国インドネシア」

  1. Vol.3 日本よりも深刻な「超・少子化」韓国人の、「産んではいけな…

    2024.04.22

  2. 2020年代の今、何故、カンボジアが急成長をはじめたのか?

    2024.03.16

  3. アメリカの巨象 エンターテイメント産業

    2024.02.27

  4. 飲食事業成長軌道編 第4話 イタリア ローマ

    2024.01.26

  5. 第3話 英会話で、本当に英語は上達するのか?

    2024.01.10