M&Aを正しく活用する時代  第1講 世界のM&Aを知ろう

「M&Aを正しく活用する時代」シリーズの第1講では、まず、世界で、日本よりも名目GDPが高いアメリカ合衆国と、中華人民共和国の、M&Aの事情から、話を進めて参ります。

アメリカ合衆国のM&A

アメリカ合衆国のM&A ニューヨーク

アメリカ合衆国のM&Aは、敵対的買収だけではありません

M&Aとは、Mergers and Acquisitionsという英語の、頭文字をとった言葉です。

Mergersとは、合併のこと。そして、 Acquisitionsとは、買収を意味します。「買収と合併」というのが、M&Aという言葉の本来の意味です。

買収と合併という言葉は、資本の力に任せて、他の企業の株を買占め、そして併合するような、少々、暴力的なイメージを連想させる言葉ですね。この言葉の産みの親、本家本元である、アメリカ、それも、ニューヨークのウオール街では、一部のM&Aは、かなりラディカルなものとして行われていることは事実です。

敵対的買収という言葉が、そのラディカルなM&A、そのものを示す言葉です。上場企業の株式を市場価格よりも高値をつけて、株式公開買い付け(Take Over Bid 略して、TOB )などの手法を用いて買い集める手法が代表的です。

このような敵対的買収が、華々しく「ウオール街」などの映画で描かれるため、皆さんの中には、アメリカのM&Aのすべてを、敵対的買収のような、非常に攻撃的かつ戦闘的なイメージで考えておられる方も多いのではないでしょうか。

しかし、実は、M&Aの本家であるアメリカ合衆国でも、このような敵対的買収は、ほんの一部にしか過ぎません。それどころか、アメリカの経営者は、日本人経営者よりも、非常に上手に、M&Aを活用して、幸福かつ豊かな人生を手にいれているヒトが、とても、多いのです。

遅れましたが、執筆者の自己紹介と、アメリカのM&Aとの関係です

さて、自己紹介が遅れました。

この辻説法かわら版 「M&Aを正しく活用する時代」を執筆いたしますのは、経営コンサルティング会社であり、成長企業M&Aのアドバイザリー事業を営む、株式会社URVプランニングサポーターズ 代表取締役の、松本尚典でございます。

僕は、1967年東京に生まれました。中央大学法学部法律学科を卒業し、そこから、現在は大手メガバンクに合併した銀行に新卒で入行いたしました。新卒研修後、その銀行のシンクタンクに配属され、そこで、僕のライフワークとなる企業経営者に対する経営コンサルティング業や、資産家に対する不動産コンサルティング業の仕事をスタートいたしました。

当時は、まだ、バブルが崩壊した直後の1990年初頭。日本には、まだ、M&Aという概念が殆どありませんでしたが、大手銀行のグループで仕事をしていたこともあって、大企業同志の合併などの実務をそこで経験し、これを通して、若かりし頃の僕は、M&Aというものを、仕事として経験したわけです。

企業法の専門家であり、その後、中央大学の学長に就任されて大学経営に辣腕を振るわれた企業法学の永井和之教授のゼミを、中央大学で出身した僕は、大学の商法学で学んだ株式の理論をベースに、大企業がそれを売買して相手を支配に収めるM&Aの実務に、銀行の立場で携わったことで、非常に興奮したのを覚えています。

そしてその後、この銀行から社費留学を認められ、僕は、アメリカに留学をする機会をいただきました。そして、ボストンのハーバード経営大学院(ビジネススクール)に入学を認められ、そこで、奮闘努力の結果、2年後に、経営学修士号(MBA)をハーバードから授与されました。

本来ならば、銀行から社費留学をさせていただきましたので、日本に帰国をして銀行に戻らなければならないところ、若かった僕は、ニューヨークのウオール街で、金融と経営に関わる仕事をする想い、絶ち切れず、銀行を退行して(その後、銀行に出していただいた留学費用は、すべて返金いたしました)、ニューヨークの、世界的な会計系コンサルティング会社と契約し、そこの、金融系経営コンサルタントに着任しました。そして、米国公認会計士の資格も取得。その後、ウオール街をベースに、2007年、40歳になるまで、仕事をさせていただきました。

そこで、この講の本題の、アメリカ企業が絡むM&Aも、相当数、アドバイザーとして経験してきたわけです。

その経験の中には、先に書いたような、敵対的買収、TOB案件もありました。しかし、僕が取り扱った多くのアメリカ企業のM&A案件は、日本のそれと同じく、友好的なM&A案件です。

アメリカでは、毎年60万社以上のビジネスが売買されています

アメリカのウオール街では、華々しい敵対的買収案件がウオールストリートジャーナルで報道されます。しかし、このような案件は、アメリカのM&Aマーケットの氷山の一角にすぎません。アメリカ全土では、実に、毎年約60万社のビジネスがM&Aの対象となっています。

日本のM&A件数は、レコフデータマールオンラインによれば、2019年時点で、4000件と報じられています。2019年の日本の名目GDPは約5兆ドルで、アメリカ合衆国の名目GDPは約21兆ドル。日本の経済規模は、アメリカの約4分の1なのに対し、M&A件数は、日本はアメリカの150分の1に過ぎません。

アメリカでは、経済の中に占めるM&Aという手法が、日本とはけた違いであることが、明確にわかると思います。その殆どが、日本と同じ、友好的なM&Aであり、友好的な投資です。

アメリカでは、M&Aは、経済の活性化と起業家精神の交承に寄与する、不可欠な手法であると考えられえています。

アメリカでは、何故、M&Aが、多いのか?

理由① 投資企業が短期での収益化を狙うため

では、何故、アメリカ合衆国は、ここまで、M&Aが多くなってきたのでしょうか?

僕は、アメリカのビジネスの性格に由来すると思っています。アメリカにおけるビジネスは、特に、東部では、非常にスピードを重視します。そのため、ゼロから新規事業を立ち上げ、それに時間をかけて育成するということを、大企業が殆ど行いません。

アメリカ合衆国の株式会社は、日本よりも株主主権が強いわけです。経営陣は、株主から経営を委託され、株主に利益を還元するために働き、成果があげられれば、株主から非常に高額の役員報酬を認められます。一方、株主に利益を還元できない経営陣は、解任を受けます。株主から評価されるスピードが、非常に早いのです。

そうなると、経営陣は、じっくりと新規事業に投資をし、それに時間をかけて育成するという行動ではなく、成長するポテンシャルのある事業を買収することに投資を行い、その投資から、短期間に回収をするという道を選ぶほうが、成果があがります。

そのため、アメリカの大企業は、常に、成長するポテンシャルの高い事業への投資機会を狙って動いています。

理由② 起業家は、大企業からの投資を受けて事業を成長させ、それを売り抜けて「成功者」となる道を選ぶため

一方、今度は投資を受ける企業側にも、M&Aのモチベーションがあります。

僕は、日本で、今、中小企業の経営コンサルタントを行っています。いつも思うのですが、中小企業を起業する起業家の考え方が、アメリカの起業家に比べて、日本ではとても、「曖昧」なのです。

アメリカの起業家は、その起業動機を聞くと、そのほとんどが、「最後に事業を売り抜けてビジネスの成功者となること」と言います。なんの事業をやるにせよ、それが、価値をつけて、その事業を売却し、その売却資金で、一生、遊んで暮らすこと、あるいは、次の更に大きな事業を仕掛ける投資に使うこと、が、彼らの明確な目的になっています。

出口戦略が、非常にはっきりしているのです。

それに対し、日本の起業家に動機を聞くと、非常に「曖昧」です。

社会の役にたちたい
みんなを幸せにしたい

それは、それでいいのだけれど、では、社会の役にたち、みんなを幸せにできる事業を作ったあと、その会社をどうするの?と聞くと、殆どの起業家が答えられません。

従業員に継ぐなどの、その場しのぎの答えを、言います。

企業が出来上がったときに、その企業価値がナン億円になっていると思うの?
そんな企業を、どの従業員が現実に買えるの?

こう聞きますと、もぞもぞの答えになってしまいます。

あげくのはて、従業員に「あげる」などという、企業経営者の常識では考えらない答えをする経営者すらいます。

あなた、贈与税が、どれだけ高率か、そんなことも知らないで、起業しているの?

あきれるような、答えが多いのですね、日本人の起業家は。

アメリカの起業家は、起業教育が行き渡っているためでしょうが、この目的論が、非常に明確です。そのため、起業から短時間で、企業価値を生み出し、大企業から投資をうけて、その資金力で事業を成長させて役員報酬をばっちり稼ぎ、最後に、株をすべて、大企業に売る出口戦略を、しっかりと考えて、起業をしているのです。

このように、投資する企業も、投資を受ける企業も、非常にM&Aを活用する志向が強いのがアメリカです。

これが、アメリカのM&A件数が、大きく成長した理由だと、僕は考えています。

中華人民共和国のM&A

中華人民共和国のM&A香港ビクトリアピーク

アメリカに対抗する中国は、M&A数でもまた、アメリカを追っています

かつてGDPでアメリカに継ぐ、世界第2位の経済大国であった日本は、2009年から2010年にかけて、中国にGDPで抜かれて世界第3位となり、その後、大きく、中国に引き離されました。

中華人民共和国は、2019年の名目GDPで14兆ドルと、この10年で、日本の5兆ドルの3倍の経済規模に達して、大きく日本を引き離し、アメリカの3分の2まで、経済規模を急拡大しました。

その急成長の中で、中国企業は、この10年間、まさに大きなチャンスととらえ、海外企業のM&Aを積極的に行い、国境を超えたM&A(クロスボーダーM&Aと呼びます)の大国になりました。中国企業の特徴は、国内企業を投資の対象とするのではなく、海外企業を積極的に投資する姿勢をみせていることです。

クロスボーダーM&Aが、非常に苦手な日本企業に対して、中国企業は、これを非常に積極的に活用しています。

中国企業のM&A分野は、拡大する市場にスピーディにアクセスすることができる分野に集中的に行われています。例えば、自動車市場は、中国は、今後、世界最大の市場になることは確実ですが、それを反映して、自動車業界におけるM&Aは非常に活発です。

執筆者と中国の関係

僕は、先に書かせていただきました通り、アメリカのニューヨークをホームベースに、ビジネスを行ってきました。2007年(リーマンショックが起きる直前)に、アメリカの金融経済力の弱体化を悟った僕は、アメリカから撤収し、生まれ故郷の日本にホームベースを移しました。アメリカには、1996年から2007年まで、ホームベースを置いていました。

その間、中華人民共和国は、驚異的な成長を遂げました。僕が契約していたコンサルティング会社は、イギリスのシティに本拠地を置く、世界規模の国際会計ファームでした。従って、僕もまた、成長する中国を見据え、西側と中国の懸け橋である香港の会計士と連携し、頻繁に、中国に通い、急成長する中国ビジネスに、様々な面で関わりました。

中国語は、英語のように、流暢には使えない僕でも、香港は語学的に不自由がなかったため、僕は、香港企業が仕掛けるM&Aにも、多く携わりました。

そして、2007年の日本帰国後、3社の大企業の役員の経験をえて、2015年に株式会社URVプランニングサポーターズ設立し、同社をホールディングス会社にして、僕は、次々に、事業を拡大。投資する企業を、URVグローバルグループに纏めました。

その中で、香港に株式会社URVプランニングサポーターズの支店をおき、深圳の中国IT会社に投資をし、上海・丹東、そして台北に、それぞれ駐在オフィスを設置して、スタッフを配置し、中国ビジネスを、現在、進めています。

香港をはじめとして、中国・台湾の事業家に多くの人脈を持っています。
その意味で、僕は、アメリカと同様、中国の情勢に精通しています。

中国企業の日本企業に対する投資

中国企業は、日本企業にも積極的な投資を行っています。

家電量販店のラオックスは、観光客の獲得を目的として行われました。システム開発会社SJIは、日本の高い技術を中国で展開する目的で行われました。

今後の中国企業のM&A 米中関係や、中国共産党の方針との関係

一方、今後、中国企業のM&Aが、これまで以上に活発に行われるかどうかは、短期的には、予断を許しません。

米中関係悪化に伴う中国共産党の内向きの政策や、日米政府による技術流出に対する外資規制など、外交関係の方向性を注視していく必要があります。

ただし、中国が、今後、アメリカを経済力で追随することは、間違いありません。今後、多少の軌道修正があったとしても、長期的に、中国企業のM&Aが世界、そして日本企業に及ぼす影響が強まることは、間違いないでしょう。

続く

本稿の著者

松本 尚典
株式会社URVプランニングサポーターズ代表取締役 兼 エグゼクティブコンサルタント

松本 尚典

  • 米国公認会計士
  • 一般財団法人M&Aアドバイザー協会認定M&Aアドバイザー

米国公認会計士の資格を持ち、アメリカや日本で様々なM&A案件を纏め上げてきた経歴を持つ。

成長企業M&Aサービスのご紹介

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