株式会社キャリア・マム
設立、2000年8月。1995年創業の育児サークルから進化して生まれたキャリア・マムは、全国100,000人の母親を中心とした多様な人材を会員に抱える。
女性の力を、企業に結び付ける老舗の企業だ。
企業への提供サービスは、マーケットリサーチ・プロモーションサービス・商品サービス企画から、各種業務のアウトソーシングまで、広域な範疇を網羅する。
そして更に、今、新規事業として、女性起業家の育成事業、更に起業支援のためのコワーキングプレイス事業を、公的機関と組んで進めている。
キャリア・マムは、まさに、母親の自立を支援する総合サービス企業に進化した。
女性の活用、そして起業の支援。
時代の最先端を走る企業だ。
しかし、今でこそ、女性の力を企業に活かし、主婦が独立を目指すのは違和感がなくなったが、同社の設立が2000年であることを考えると、創業時は、かなり先鋭的な事業であったと想像できる。
創業から、様々な試行錯誤があったことは、想像に難くない。
この事業を創業から立ち上げ、年商3億7000万円(平成29年6月期)の企業に育て上げたのが、創業からのオーナーであり、ご自身も2児の母である堤香苗社長。
働く母親を中心とした多様な人材の活用は、人口減少社会日本の企業にとっては、もはや避けて通れない課題だ。
そして、一方、母親達もまた、ご主人や家庭に依存をして暮らせる時代ではない。
多様な人材の活用、そして女性の起業。
20年近くに渡り、この課題に取り組んでこられた堤社長に、インタビューした。
本日は、東京の多摩センターにあります、「おしごとカフェ キャリア・マム」にて堤香苗社長のお話をお伺いします。
今、インタビューに際して、東京都認定インキュベーション施設 コワーキングCoCoプレイスも拝見しました。
特に、コワーキングCoCoプレイスは、子供を預ける保育室とコワーキングスペースがガラス越しで併設されており、仕事をする母親が産休や育休中でも、自己研鑽や仕事ができ、起業もできる環境になっておりますね。
尚、今日は、堤社長のインタビューに、インターンのKさん(M大学在学中)も同席されています。
堤社長:わざわざお越しいただき、ありがとうございます。
何故、母親と企業という「異質」なマッチング事業を創業したのか?
さて、まずは、堤社長。
今から、約20年前に、母親の活力を企業に提供するという事業を創業されたわけですが、その創業に至るきっかけを教えていただけますか。
堤社長:はい。私は、早稲田大学の在学中から、フリーアナウンサーとしてTVやラジオのDJ、パーソナリティなどをしておりました。その後結婚し、最初の子供が生まれたわけです。
当時、男女雇用機会均等法が施行された頃でしたが、まだまだ社会では男女に大きな待遇の差がありました。
「24歳=クリスマスケーキ」といわれた時代です。
え?
すみません。それって、どんな意味ですか?
堤社長:「クリスマスケーキ理論」といわれた話です。
つまり、24歳までは、引手あまた。でも、25歳になった途端に、クリスマスケーキみたいに(25日になると)値段が崩れるということ。
うわ!
そういう意味ですか。それは、今の時代から考えたら、想像できないような状態ですね。
(ここで解説。あわわの師さんは、この時代、アメリカのニューヨーク州マンハッタンという異界に住んでいたらしく、この当時の日本の事情に疎いらしい)
堤社長:そんな時代の中、私も、26歳で結婚し、28歳で出産したわけです。
私も、このとき、いいお母さんになろうと単純に思っていたんですよ。
でも、面白くないんです。
公園に集まるお母さんたちは、自分の小さい価値観の中に納まらない人の、悪口を言いあい、いじめるわけです。
勿論、そのお母さんたちも、もとは、きちんとした会社に勤めて、仕事もしていたわけ。それが、クリスマスケーキ理論みたいな世間の風潮に押し流されて、たどり着いた「いいお母さん」の姿が、これなんだって、私は気付きました。
これは、変えなきゃ駄目だって。
そう思ったんです。
女性を上手に活用する男性管理職のコツは?
なるほど。さて、それで、堤社長は、母親の力を企業に結び付ける事業をスタートされたわけですね。
一方、時代は、大きく変わり、今は企業の管理職は、女性を活用できないでは済まされなくなりました。女性の活用ができない男性は、管理職適性を否定される時代です。
堤社長からご覧になって、企業の男性管理職が女性を使うコツのようなものってあるのでしょうか?
堤社長:男と女は、感情とその表現に違いがあるように私は思います。
男性は、感情をある程度後ろに残して、表現をすることができます。しかし、女性は、感情を抑えるより先に表現が出てしまうものです。
男性中心で動く社会は、感情を後ろにして、表現することで成り立つ構造です。ですから、そこに感情が先に表現に出てしまう女性が入ると、男性は、困惑してしまうのです。女性が、男性中心のビジネス社会に適合しないのは、ここが阻害要因になっていると私は思います。
逆に、男性管理職とすると、感情を先に出す女性にちょっとした配慮をすることで、非常に彼女たちを上手く使えるようになると思います。
小さなチョコ一個でいいんです。こんな新商品も出たんだよ~って、渡す配慮です。
上司が人間的なスキを見せると、女性は感情的にぐっと、近づきやすくなります。そうすると、相互のコミュニケーションもとても協力的になります。
なるほど、なるほど。堤社長は、とても、客観的に男性と女性の違いをみておられますね。
依存から自立への架け橋
家庭を持つ、ということは、男性も女性も、相互に協力協働関係を創る、という意味に他なりません。
これを別の見方をすれば、相互の依存関係を構築することが家庭生活です。とりわけ、女性、すなわち、母親には、依存の傾向が強くなると思います。
一方で、キャリア・マムの活動、最近の活動である「母親の起業」ということでいえば、独立と自立が大きな精神的な課題になります。
例えば、セミナーを開催されて、起業のナレッジを指導されても、なかなか依存という精神状態から、自立という状態に持っていくことは難しいのではないでしょうか?
このあたりの、スキームをどのようにキャリア・マムでは構築されているのでしょうか?
堤社長:それは、「働く」ことでえられる経済力をつけることだと思います。
依存は、自分で稼いでいないことで起きてしまいます。したがって、先行するのは、意識ではなく、現実の経済力です。たとえ、月に数万円でもいいから、自分で稼ぐこと。ここから始めるべきだと思います。
依存という話でいえば、サラリーマンも会社に対して非常に強い依存状態にあるように思います。
例えば、日本では、海外と違い、所得税納税手続きや年金・健康保険なども、すべて企業が手続きをする。これが合理的だということでしょうが、それでは、サラリーマンには、どのような手続きで、どのような金額が動いているのか、実感がないわけです。
これで、独立しようとか、副業をしなさいっていったって、どのくらいの収入が必要なのか、判断ができない。これもまた、依存の一つで、日本人の副業や独立に際してのリアル感を喪失させている要因です。
そうですね。企業の法定福利などの負担額を、むしろ、労働者に知らせないように日本では政策的に情報を遮断していますね。
企業が支払っている、法定福利を含む実質的な賃金と、手取りが解離し、自分に対する企業が負担するコストの現実感がないわけです。
堤社長:年金だってそうです。最近では、どこから、どれだけ手続きをすれば貰えるなどというアドバイスばかりが横行し、60歳を過ぎて、そこから依存をする。
そんなことでは、人生面白くないはずです。年金に必要なことは、生活保障であって、生活を国に依存することではないはずです。
70歳になっても、80歳になっても、自立に向かっている方は、非常に魅力的で、面白いですよね。新しいものを学び、新しい活動をはじめる。これを、続ければ、幾つになっても、人生は楽しいはずです。
キャリア・マムは、母親をスタートにしているけれども、そこに限らず、高齢者の方や、外国人、障害者の方を含む多様な人たちの自立をする活動を支援する、そんな会社でありたいと考えています。
将来に向けた構想
最後に、堤社長がお考えになる、今後の事業の戦略について、お聞かせ下さい。
堤社長:私は今、人生折り返しの年齢です。ここから、68歳までを、一つのタームで考えています。
その中で、5年に一回ずつ新規事業を打ち出したいと考えています。
ちょうど、今回は、コワーキングプレイス事業に参入しました。そうすると、あと2回の新規事業のチャンスがあります。
例えば、海外へのキャリア・マム事業の展開なども、非常に魅力的だと考えています。
できれば、今後、ハワイやシンガポールなどに、事業展開の視察を行いたいと考えています。
御社の事業は、今の日本の社会から観ると、朝日の昇るような「社会性ある事業」という印象を受けます。そのため、私は、堤社長は、社会事業家に近い方なのかな、というイメージを持って、インタビューに臨みました。
しかし、寧ろ、朝日のような「強い光を発信するベンチャー事業家」に近いタイプの方ですね。
堤社長:でも、実は、事業は「朝日」かもしれないけど、私自身は、どっちかというと、人見知りをする「夕日が好きな」タイプなんです。
???
堤社長:キーウエストの夕焼けって知っていますか?あそこにいくと、夕焼けの時間にヒトが集まってきて、みんな、黙って、夕焼けを静かに見守っているのです。
私も、そんなことのほうが、好きな人間なんです。
堤社長をメディア等が発信されている、日ごろの活動のお姿とは、違う一面でいらっしゃいますね。
ヘミングウエイの、ハードボイルドな世界ですね。
ステージは違いますけれど、「キリマンジャロの雪」の最後のフレーズ。
「ああ、あそこが、死んでから俺の往くところか」
という心境。
堤社長:リレーのとき、転んじゃった子が、起き上がって最下位でも最後まで走ったとき、みんなが見守って声援を送るじゃないですか。
キャリア・マムは、「誰もが自分のペースで輝くことのできる」そんな会社であり続けたいというのが、私らしい経営姿勢だと思っています。
それもまた、ハードボイルドですね。
今日はありがとうございました。
インターンの取材の感想
初めて取材をしているところに同席させていただいて、取材はどういった風に進めていくのかというのを間近で見ることができて貴重な体験ができました。
また、キャリア・マムがどういった経緯でできたのかというのを聞いて、自分も何となく生きているだけでなく少しでも知識を得て世の中の役に立てたらいいなと思いました。
また女性は依存してる人が多いと聞いて、自分も周りの環境や人に依存するのでなく、自立した女性になれるようになりたいなと思いました。
(M大学 K)
【インタビューを終えて】
朝日のような輝かしい事業。
それを支える、自立に向かう個を静かに見守る、社長。
事業は朝日に近いんだけど、私は、キーウエストの夕日を一人で黙って見守ることのほうが好き。
堤社長は、とてもチャーミングな笑顔を浮かべながら、私にそう言った。
キャリア・マムは、社会性の高い事業を進めており、公的な機関からの補助金等も積極的に活用しているが、一方、堤社長は、非常に自立心の強い事業家だ。
公園に集まる母親たちのいじめや、くだらない喧嘩の中に、そのポテンシャルを活かせない社会の在り方を疑問視し、キャリア・マムは生まれた会社だ。
登録されている母親は全国で10万人に上るが、その中で実際に仕事をされている方は、3000名程だという。
ある意味、母親にも、なかなか厳しい会社ということだ。
多様な人材にポテンシャルを観るけれども、確実に、顧客である企業にとって有益なサービスを提供できる方を選定して仕事を依頼している。
それであるからこそ、顧客である企業の信頼をえて、20年、会社を継続できたのだろう。
社会事業の皮を被った、「偽物の企業」ではない。
しかし、そんなハードボイルドな一面がある一方、キャリアアムは、とても温かみがある会社である。この点が素晴らしい。
厳しさと、温かさの、バランスがとれている。
そのバランスを支えるのは、堤社長の性格ではないかと、私は感じた。
「事業は朝日に近いんだけど、私は、キーウエストの夕日を一人で黙って見守ることのほうが好き。」
「キャリア・マムは、リレーのとき、転んじゃった子が、起き上がって最下位でも最後まで走りきったとき、みんなが見守る。そんな会社であり続けたいというのが、私らしい経営姿勢だと思う。」
この厳しさと温かさのバランスこそ、今の日本の働き方に欠けているものなのではないか。
残業をさせれば、何でもカンでもブラック企業だと批判し、仕事が残っているのに、会社の電気をすべて消してしまう、といった、壊滅的にバランス感覚の悪い、この日本の労働環境に。